『マッドサイエンティストの手帳』563

●マッドサイエンティスト日記(2013年9月後半)


主な事件
 ・台風一過の淀川(19-20日)
 ・森山威男Jazz Night 2013 (21日)
 ・ニューサン(28日)


9月16日(月) 穴蔵/台風18号通過
 風雨強く、午前3時に目が覚めてしまう。
 『午前3時の台風手形』なんて作品を思い出してしまうね(かんべむさし氏の初期短編の中に出てくる作品)。
 こんな日は穴蔵に閉じこもるに限る。
 朝食用の食材も昨夜持ち込んでいる。
 台風18号のニュース見ながら仕事……のつもりだったが、そうもいかず。
 通いの管理人が「JRが止まっているので遅れる」と電話してきた。
 ゴミの収集日なので吹き降りの中、チェックに出る。
 掃除を依託しているシルバー氏が元気に「出勤」してきて、倉庫を開けてくれといってくる。
 色々あるなあ。
 こうなると、致し方なし、前から気になっていた防犯カメラの機能チェック、建築図面の整理(デジタル化の準備)など、理事長業務を行う。
 9時過ぎに雨は止み、午後は青空となった。
 まあ、懸案事項が幾つか片づいたからいいか。

9月17日(火) 穴蔵/ああ貨物駅(4)
 台風一過、快晴にして涼。
 台風の被害が気になり、播州龍野へ行くか迷っていたところに、相棒の某くんから連絡あり、特に異常はないようである。
 播州龍野行きは来週に延ばし、穴蔵にて雑事の続き。
 午後、散歩に出る。
 ジュンクドー〜紀伊国屋〜ヨドバシ〜駅前ビルのCDショップのコース。
 ステーションシティ「風の広場」にも上る。
 2週間ぶりに貨物駅を見ると、西側の小型のカマボコ屋根も剥がされ、鉄骨だけになっている。
  *
 西側の小型カマボコ屋根も剥がされ鉄骨のみ。
 9月中には西端の線路を残して、ただの空き地となるか。
 オリンピックがらみで地下「新駅」が前倒しされる説もあり、工事は切れ目なくつづく可能性もある。
 うーん、25年ちょっと先の面白いイメージが浮かばない。

9月18日(水) 穴蔵/ウロウロ
 本日も晴天なり。
 午前中、数時間、少しは仕事もするのであった。
 昼前に専属料理人と歩いて梅田へ。
 某出力センターで某図面のデジタル化について聞く。推奨する方式は意外に高い。図面を使用する側の要求事項とか業界事情を調べた方がいいようだ。
 わがタイムマシン設計図は手書きとCAD混在で、AUTOCADのバージョンはもう古いし、NCにデータ入れてた外注先の某さんが急死した時は往生したものなあ。
 電気回路、プリント基板の図面しかり。
 結局は「紙図面」に相当するデータがいちばん長く残ることになるのかな。
 昼はむつごろうにて、ちょっと贅沢なランチ(量はしれている)。
 
 週末のala行きのチケットを手配して帰館。
 夜は集合住宅の理事会。
 「通り魔事件」と「不審者侵入事件」があったものだから、議題多し。
 内規にも定めていない事項が複数あり、管理規約への追加を検討しなければならぬ。
 理事長判断での処置(主にケーサツ関係)が大きくは間違ってなかったのが救いである。

9月19日(木) 穴蔵
 定刻午前4時に目が覚める。
 本日も晴天にして涼。
 穴蔵にて集合住宅の理事長業務を執り行う。
 月次の伝票処理。
 2件あった刑事事件にからんで、「防犯」掲示の作成。
 さらにそれらに関連して、管理規約と某細則の試案作成。
 SF関係はなにもできなかった。
 夕刻、散歩に出る。
 久しぶりに淀川堤を歩く。
 先日の大雨で増水、葦の群生がなぎ倒され、葦原は流れてきたゴミの堆積場と化している。
  *
 第9地区
 河口から8キロの距離標にて、秋分の日間近の落日を定点撮影。
  *
 東からは「中秋の満月」が昇ってきた。
 猫じゃらし月は東に日は西に

9月20日(金) 淀川(城北流域)を見に行く
 定刻午前4時に起床。
 昨日の淀川(中津流域)のゴミ堆積光景が衝撃的だったので、上流が気になり、見に行くことにする。
 テレビでは渡月橋の冠水ばかり放映されたが、上流があれなら、淀川全域、ひどかったにちがいないのである。
 5:30に自転車で出る。
 本庄から淀川堤を毛馬へ。河川敷は泥が乾いて砂漠状になっている。
 毛馬閘門を越えて、河川敷公園を走行する。
 6時前、日の出とともに、毛馬洗堰の向こうに「中秋の満月」が沈む。
  *
 河川敷公園は「復旧」しつつあるが、ゴミの堆積がすごい。
 サッカーのゴールが流され、バックネットが倒れ、架設トイレまでがわやくちゃ。
  *
 第9地区
 赤川鉄橋に撮り鉄諸氏が待機中である。
 礼儀正しい人たちで、コンデジをポケットに入れてるだけなのに、じゃまになりませんかと気遣ってくれた。
  *
 5:50頃に通過するはずの貨物列車が遅れているらしい。
 鉄橋に併設されている赤川仮橋(歩道橋)が複線化工事のために、ついに10月31日24時に閉鎖される。
 70年に毛馬に来て以来、何度も利用してきた。
 「大関」という居酒屋2階は城東貨物線の高架に面していたから、SLを眺めながらビールを飲んだものである。
 ちなみに「さよなら赤川鉄橋」というイベントもあるらしい。行ってみようかな。
 貨物列車は来ないので、さらに上流へ。
 城北公園北側のワンド。
 釣りしている人もいて、いつもと変わらぬ雰囲気だが、イタセンパラはどうなったのか。
  *  *
 何しろ堤防の中ほどまで水位が上がったのである。
 ペットボトルで水位が記録されている。
 流域のほとんどがこうだから、ペットボトルの量に改めて驚く。渡月橋から流れて来たのか。
 おそらく上流の河原や河川敷に捨てられていたのが洗い流されたのであろう。高槻あたりから上流はきれいになっているのかも。
 淀川流域、こんなにペットボトルをポイ捨てするアホが多いのか。
 そんな連中の小便を濾過して飲んでるのかと思うと、情けなくなってくるなあ。
 大阪工大のところまで行って引き返す。
 赤川鉄橋、6時50分に貨物列車が来たところであった。
  *
 河川敷から撮影。シャッターが1/10秒ほど遅れた。
 本日の写真、たぶんどこかにアップされるのだろうが、まだ(21時前)見当たらない(どなたか、発見されたらご教示くだされ)。
 同じコースを引き返し、7時半に帰館。
 あとは終日穴蔵にて雑事。
 たいして生産的な仕事はできないのであった。
 夜は粗食にてノンアルコール。
 早寝するのである。
 さあ、明日は年に1度の可児市行きである。

9月21日(土) 森山威男 Jazz Night 2013
 10時過ぎの新幹線で名古屋へ。
 昼過ぎに尊敬するジャズ友・今高氏と千種で会う。
 年に一度、多治見へ向かう前の恒例行事である。
 だいたいトラッド系ジャズに関して情報提供を受けるのがパターンだが、今年は半分以上が病気の話。トラッド系、最近はこんな話題ばかり。
 千種から多治見へ移動、おなじみオースタットにチェックイン。
 ここで九州組、他の大阪組と合流し、夕刻、大多線・可児から可児文化創造センターalalへ、正面に沈む夕陽に向かって一直線の道を歩く。
 年1回、脚力を確認するための「通いなれたる森山の径」である。
 九州からテリー夫妻とKちゃん、大阪からI田くんとY原さん、おれの6名。
 途中、コンビニでカツサンドとビールを買って、alaの芝生でちょっと休憩。
 これも毎年のパターン。
 が、ここでも話題はまず病気の話。嗚呼。
  *
 いずれも森山追っかけ歴40年を超える顔ぶれである。
 ということで、森山威男 Jazz Night 2013 開演である。
 おなじみ「Small Orchestra」編成。
 森山威男(ds)
 渡辺ファイアー(as)、川嶋哲郎(ts,fl)、田中邦和(bs)、岡崎好朗(tp)、中路英明(tb)
 佐藤芳明(acc)、田中信正(p)、加藤真一(b)
 【第1部】
 ・ボレロ
 ・Forest Mode
 ・スイングしなけりゃ意味はない
 ・東雲
 【休憩、ジャンケン大会】
 【第2部】
 ・Danny Boy
 ・Lamentation
 ・Gratitude
 ・Sunrize
 ・hush-a-bye
 ・Good bye
 おなじみの曲だが、メンバーが最高の充実期にあって、たまらんなあ。
 「スイングしなけりゃ……」は初めて演奏されたが、川嶋哲郎さんの編曲、これはオーケストレーションの面白さと個性的なソロ回しを並立させた見事なアレンジと思う。
 21時終演。
 また同じ道を、今度は正面に昇った十六夜の月を眺めつつ可児へ歩き、22時頃に多治見着。
 イタリアンのPAPA'Zへ。
  *
 ウチアゲ会場に紛れ込ませていただき、隅の方で抜群のピザやパスタで生ビールをいただく。いと少なしを。
 多治見の良心「パパス」に栄光あれ。
 深夜、坂道を夜風に吹かれつつ歩いてオースタットへ。
 本日は14,836歩。
 来年もこの距離を同じメンバーで歩けますように。

9月22日(日) 多治見→大阪
 オースタットにて午前5時に目覚める。
 4時間ちょっとの睡眠だが、気分爽快。
  *
 10階から見る多治見の西空、中央に明け方の月。
 来年もこの風景を見られるだろうか……などと考えると、早く穴蔵に戻りたい気分になり、7時過ぎ多治見始発の普通列車で名古屋に向かう。
 新幹線、混んでいる。
 新大阪行きのひかり、東京で6時半頃に乗った客でほぼ満席。
 7割ほどが京都で降りる。人気があるんだなあ、紅葉には早いはずだが。
 10時過ぎに帰館。
 机に向かうのである。
 たちまち夕刻となる。
 夜は専属料理人が色々並べてくれ、メインディッシュは牛肉のワイン見込み。
 
 昨夜のイタリアンにつづいて本日はフレンチ風。
 ワインを少しばかり。煮込み料理に使わず、そのまま飲ませてもらう方がありがたいのだが。
 早寝するのである。

9月23日(月) 穴蔵
 定刻午前4時に起床。
 6時ちょうどに秋分の日の日の出。(公式的には5:46)
 机の前から東を見ると、ビルの隙間から日が昇るのが見える。
 
 秋分・春分の落日の定点撮影(淀川堤)はやってきたが、日の出の位置については、10年以上ここにいながら気づかなかった。
 半年後にもチェックすることにしよう。
 終日穴蔵。
 うーん、相変わらずまとまったとこが出来ないままだな。
 たちまち夕刻となる。
 夕食時、ニュースのあとテレビを切り替えたら(たぶん「魔法のレストラン」)ゲコ亭の村嶋オヤジが「引退」して、フジオフーズが経営を引き継ぐという。
 フジオの社員数名が「跡継ぎ」として「特訓」したみたいだが、まさか上半身裸でではあるまい。ゲコ・ブランドの継承か。
 森町食堂は昔から(たぶん中島らも氏の事務所が近くにできる前から)愛好してきたし、フジオフーズの経営方針には好感をもっている。「つるまる」も好きだし。
 ゲコ亭も15年前から5年前まで何度か利用している。
 正直いって、ゲコの銀シャリがそこまでうまいとは思わないのだが、面白い試みであるとは思う。
 阪堺線に乗る機会があれば寄ってみよう。
 早寝のつもりだったが、21時からテレビで芦辺拓さんの『明智小五郎対金田一耕助』があるのに気づいて、見ることにする。
 テレビドラマを見るのは何年ぶりか。たぶん『運命の人』以来のはず。
 原作の雰囲気を出そうとがんばっているとは思うが、金田一役の役者が「軽く」てイライラするなあ。

9月24日(火) 穴蔵
 定刻午前4時に起床。
 食事のため3度「自宅」へ行く。
 某工務店が来て集合住宅の工事について打合せ。
 それ以外は穴蔵にて過ごす。
 たいした仕事はできぬまま。
 【ニュース雑感】
 クボタ本社が、隣にできたライブハウスで縦ノリジャンプをやると、横揺れが生じて、船酔いみたいな気分になるという。
 確か木津市場の東あたりのはず。一度見物に行ってみよう。木津市場へは長いこと朝飯食べに行ってないからなあ。
 この種の話は、ボンサラ時代、織機工場の塀を隔てた住宅地の振動が問題になった時から色々知っている。
 いちばんスケールの大きいのは、中国で数億人が1メートルジャンプしたらアメリカが地震で壊滅するという話だろう。
 先代・桂歌之助が「はまなこん」にゲスト出演した時に提供した『地震麻原』はこれをネタにしたのだが、出来はいまひとつだったなあ。原稿も消失してしまった。

9月25日(水) 穴蔵
 定刻午前4時に起床。
 食事のため3度「自宅」へ行く。
 それ以外は穴蔵にて過ごす。
 たいした仕事はできぬまま。
 【つまらん雑感】
 ある任意団体に所属しているのだが、最近、以前からの疑問がアタマから離れない。
 いわゆる「仲良しクラブ」で、目的が「会員相互の親睦」にあるのだが、「物故会員」というのもあって、だんだん増えている。
 おれもそのうち「そちら」に入りそうだが、そうなると退会が難しくなりそうな。
 そもそも死者と「相互の親睦」が可能なのであろうか。
 おれは先日も「ある団体」に「死亡届」を出して「実質退会」としたのだが、これは自分の意志で入会した団体ではない(前科者のリストに載せられているようなもの)。
 歳をとると色々な団体に属しているのが煩わしくなってくる。
 還暦を迎えたとたんに地域の老人クラブに入った同級生がいるが、気が知れんよ。

9月26日(木) 穴蔵
 定刻午前4時に起床。涼しくなった。
 食事のため3度「自宅」へ行く。
 それ以外は穴蔵にて過ごす。
 たいした仕事はできぬまま。嗚呼。
【ニュース雑感】
 桜宮高校の体罰教師・小村基に懲役1年、執行猶予3年の判決。
 ニュースで見たが、この大阪地裁の書記官?は美人だなあ。
 傍聴に行ってみたくなる。

9月27日(金) 穴蔵/ああ貨物駅(5)
 定刻午前4時に起床。さらに涼しくなった。
 午前6時、外気は20℃、室温26℃。
 快適なので終日穴蔵……というわけにもいかず。
 金融機関などに行く用事があり、さすがに4日間出歩いてないから運動不足、午前中は散歩とする。
 ステーションシティ「風の広場」にも寄る。
  *
 貨物駅跡の西側のカマボコ屋根、10日間できれいになくなった。
 JR、こんなことだけは仕事が速いなあ。
 グラフロ西側を歩いて帰る。
 中津陸橋(北端)から見る貨物駅跡。
  *
 西側の単線のみ(「はるか」や「くろしお」用に)残されている。
 おや、オーシャンアローではないか? 鉄ではないから自信ないけど。
 11時過ぎに帰館。
 午後は穴蔵にこもる。
 小松左京マガジン50号……最終号が届く。
 ひとつの区切りであるなあ。これについては改めて書くことに。
【ニュース雑感】
 「尼崎脱線事故、JR西日本の歴代3社長に無罪判決」
 2代目〜4代目が強制起訴されていたが、5代目渡辺山崎正夫の無罪がすでに確定しているから、有罪は無理であったろう。
 被告人として法廷に引き出すことが懲罰みたいな面もあったからなあ。
 いずれもエリート意識だけは強いお役人だから、3悪人役人にしてみれば「山崎がしっかりせんからこんなことに」、山崎は「運が悪かったよなあ、よりによっておれの時に事故起こしやがって」で、罪悪感なんてカケラもなかろう。
 それよりも、おれはチョロQ事件の方が気になる。チョロQ問題は決着したのか? おれは忘れとらんぞ。

9月28日(土) 穴蔵/ニューサン
 定刻午前4時に起きる。
 夜か長くなり、6時に明るくなる。
 快晴にして涼。外は20℃、室温26℃。こればっか。
 終日穴蔵。
 たいした仕事はできぬまま。嗚呼。
 夜、専属料理人と梅田、ニューサンへ。ラスカルズ出演の日である。
 盛況で、正面のODJC関係者テーブルに同席させていただいた。
  *
 右耳から河合さんのクラ、左耳から福田さんのトロンボーンという至福の席である。
 カツサンドでビール。うまーーーーっ。
 最終3ステージまで。「おじいさんの古時計」とか「国境の南」などポピュラーな曲も久しぶりに演奏されていい雰囲気であった。
 23時頃、ガールズバー密集地帯を抜けて帰る。
 店長が撲殺階段から転落死した「姫ん家」は営業しているが、店内ガラガラであった。

9月29日(日) 穴蔵
 わ、目覚めれば午前7時である。
 夜遊びはするものだ。
 終日穴蔵。
 たいした仕事はできないまま夕刻となる。嗚呼。
 専属料理人に色々並べてもらって夕食。
 20時を過ぎたとたん、テレビのテロップで堺市長選挙「竹山当確」と出る。
 しらじらしい限り。夕刻までのニュースはなんじゃ。知ってて知らぬ顔するテレビアナ。戦争になってもこの調子なんだろうな。
【ニュース雑感】
 おれは「政治」「宗教」「血液型」のことは書かないことにしているが……といいつつ、たまに政治のことを書くが……
 堺市長選で維新敗北。
 堺市がどうなろうとかまわんが、大阪市役人どもの快哉が聞こえてくるようで気分よろしくない。
 おれは橋下がダブル選挙で大阪市長になった時、ともかく大阪市に巣くう吸血鬼を斬りまくってほしいと期待した。「それ以外のことは期待しない」と明記している。
 「維新」を国政にまで拡大しようとは、夜郎自大というか、ハシシタ、なにを浮かれたのか。
 これを機会に、橋下は大阪市長としての職責を全うしろ。役人斬りまくりである。
 再度いうが、それ以外のことはなーーーーんも期待しとらんからね。

9月30日(月) 穴蔵/山崎豊子の訃報
 定刻午前4時に目覚める。
 相変わらずダラダラと非効率な雑事。
 本日から播州龍野へ移動するつりもだったが、用事ができて、1日ずらすことにする。
 午後、徒歩7分の某放送局に出向き、某企画の打合せ。
 実現する可能性が高いが、ま、最終決定してからお知らせすることに。
 夕刻のニュースで山崎豊子の訃報
 29日未明に心不全で。88歳。『約束の海』の連載が始まったばかりであった。
 生涯現役。国民作家と呼べる最後の人であろうか。
 ニュースでは一様に「社会派」の「直木賞作家」と報じているが、そうであろうか。
 おれは『白い巨塔』(大学時代に読んだ)からの読者だが、当時から、なぜ山崎豊子がいわゆる「文壇」からバッシングされるのか、不思議でならなかった。「盗用」問題以前から、悪意的な匿名の書評をずいぶんみかけたものである。70年代は特にひどかった。なぜそんなに嫌われるのか。
 山崎豊子に見えている「読者の顔」が古い文壇人種には見えなかったからであろう。
 「白い巨塔」の5年前の批評を再読して理由がわかった。
 江藤淳の文芸時評(1961年4月)である。
 朝日の文芸時評で、めずらしく新聞連載小説『女の勲章』を取り上げている。
 おれなりに要約すると、中間小説の登場が、純文学を衰弱させたが、同時に従来の大衆小説の書き手から「素朴健康な読者の顔」を見る目を奪った。
 『女の勲章』の登場人物は作者の観念で作られた人形に過ぎないが、「作者の先取りした想像力」によって定型的・儀式的に動かされていくところに「快感」を覚える。しかも題材(ここでは洋裁学校)を「すべて自分で調べ、見たものを書こうと努める」ところに現代性がある。
 永井荷風は自分の目でたしかめたものしか描かなかったが、山崎豊子の資質もこれに通じていて(結果が荷風とちがうとしても)作者にこのような努力をさせるのが「読者の顔の明確さ」であり、「山崎氏は読者を尊重しつつ、決してこれにおもねってはいない」という。江藤は山崎豊子を「正統的な大衆作家」と位置づけている。
 「軽蔑しながら読者におもねるという不実なつきあい」はすぐ見抜かれるのである。
 山崎氏の「調べ、見る」対象が、医学界や銀行や商社に向けられても、この姿勢は変わっていない。
 おれはテレビをほとんど見ないし、そういえば「半沢」も「あまちゃん」も見たことがない。ここ数年で見たのは「白い巨塔」「華麗なる一族」「運命の人」くらいで、全部が山崎ドラマである。読者への誠実さが物語の骨格にあるからであろう。

 無為に過ごした9月が終わる。嗚呼。


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