『マッドサイエンティストの手帳』323

●マッドサイエンティスト日記(2005年2月前半)


主な事件
 ・穴蔵の日々(1日〜)
 ・松下製品はいっさい買わない(2日)
 ・播州龍野の日常(4日〜)
 ・穴蔵の日々(9日〜)
 ・播州龍野の日常(14日〜)


2月1日(火)
 わ、午前3時に起きてしまった。
 外、うっすらと雪が積もっている。
 こんな日は穴蔵でじっとしているに限る。
 ということで、そうしていた。

2月2日(水)
 定刻午前4時起床。
 朝刊に「特許侵害で『一太郎』販売禁止」のニュース。原告は松下電産。
 読後、ネットを色々検索。
 だいだいの事情は理解したつもりであるが、むろん、訴状から判決に至る資料は見ていない。
 以下は、そういう段階での所感である。
 何年か会社で特許管理を担当した立場として、2点、思うところあり。
 1.やはり高部真規子はバカ裁判長ではないか。
 2.松下電産の戦術は根本的に間違っている。
 このふたつである。
 1について。
 訴えられたジャストシステムは「新規性」でなく「進歩性」で争ったらしい。
 つまり松下のは「新規の発明」ではなく「誰でも思いつく発明」(進歩性なし)という立場で争った。
 前者の場合は、論文審査と同じく、ま、理屈は明快だ。
 後者の場合はややこしい。
 その発明が、誰でも(←この「誰」というのは、その業界でそれなりの能力を持つ専門家であり『当業者』と呼ばれる)容易に思いつくものかどうか、そこがポイント。
 難しいのである。
 「当業者」というのは架空の存在である。
 架空の人物が「容易に思いつく」かどうか。この判定は難しいわなあ。
 で、「当業者」をロボット(人工知能)にすればいいというのがおれのアイデアであるが、ま、これは後日なんとかかたちにすることとして、裁判官が当業者たりうるかといえば、絶対に無理。いかに秀才でもそんなにあちこちの分野の専門家にはなれないもの。
 結局、原告、被告、双方が、いかなる当業者像を作れるか、裁判官をどちらに感情移入させるかが勝負になる。
 本判決、細部に興味あるところだが、争われた機能を見る限り、わしは現段階では「新規性なし」と見る。
 要するに高部真規子がこの分野では当業者に遙かに及ばぬアホバカであるということだ。
 おれはそう判断する。
 付記すれば、おれは一太郎Ver.3以来のユーザーだが(そして、この10年ほどはほとんどATOK+エディターだが)、ヘルプ機能なんて使ったことがない。いや、存在すら知らなかった。今回、試してみたが、わずらわしいだけの機能。ない方がいい。
 2について。
 松下がジャストシステムを標的にしたのは、ある意味当然の戦術だろうが、松下の戦術(ま、松下は格好つけて「特許戦略」とでもいうかね)には全く共感できない。
 これは……延々と書きたいところだが、面倒になってきた。
 要するに日本の特許訴訟では企業の「力関係」が影響することはままあって、今回、それが露骨に見える。はっきりいって、不正競争防止法違反ギリギリではないか。
 ジャストが争った結果勝ったとしても、漁夫の利を得るのは他の有象無象の企業なんだし。
 そんなこと、松下はわかりすぎるほどわかっているだろ?
 ええかげんにしときなよ。
 決して判官贔屓でいっているのではない。日本の技術水準の維持ということでも、この訴訟にほとんど意味はない。
 松下がこんな会社だとは思わなかったね。
 言いたいことは色々あるが、ともかく、本日をもって「松下製品は買わない」ことにする。
 少なくとも控訴審の結果が出るまで、結果次第で生涯(家族にも命じる)墨守することにする。
 松下には親族が勤務していて、嫌な思いもしそうだが、これは徹底する。小は乾電池、大はプラズマテレビまで、絶対に買わない。
 おれの場合、こういうことは徹底していて(理由は省くが、「富士フィルム」は30年以上使っていない。他にも3社ある)、少々不便でも、嫌なメーカーの製品に金を払わない。が、まさか松下がこうなるとはなあ……。
 ま、今の日本、特定のメーカーにしかない商品というのはないから、困ることはないけどね。
 兄貴、すまんな。
 と、午前中は嫌な気分で過ごした。
 寒いけど、午後、タイムマシンの部品購入もあり、散歩を兼ねて外出。
 地下鉄で動物園前へ。
 off
 ジャンジャン横丁を抜けて、通天閣。
 色々と写真を撮りながら北上。
 日本橋の部品屋に寄り、あと、ディスクピアでCD(アーティ・ショーなど)数枚衝動買い。
 向かいのF無線が中古DVD店になっているのが寂しい。30年前から、白モノはここと決めていた店である。
 さらに北上し、「Musicraft」(06-4396-2027)に寄る。
 日本橋(電器店)の北端あたり、ちょっとわかりにくい場所だが、クローリー・ジャズバンドの林さん経営の店。トラッド系のCD、LPの宝庫であるが、格安のジャズ居酒屋でもある。
 午後3時頃に行って、雑談しつつ、色々聴かせていただく。
 off off
 林さんが、意外にも鈴木敏夫(クラの鈴木章治の兄貴/ピアニスト)のファンであり、鈴木章治の珍しいLPを持っておられることが判明。
 キングの「ムード歌謡ベストヒット」なんてのを聴かせていただいた。
 リズムエースではなく、鈴木敏夫グループに鈴木章治が参加した歌謡アルバム。
 これが結構聴かせる。……鈴木章治、若いなあ。
 ということで、湯割り3杯。

2月3日(木)
 寒さはピークを過ぎたというが、なんの、朝からキンタマ収縮である。
 終日穴蔵。
 夕刻、かんべむさし氏、来穴蔵。
 バカ話1時間半。
 夜、専属料理人とビール飲みながら、BSで『オータム・イン・ニューヨーク』を最初の30分ほど観る。
 専属料理人は映画館で観たらしい。
 おれの興味は主題曲に同名の「ニューヨークの秋」が使われているかどうかだけなのだが、音楽は別物のようである。
 穴蔵に戻り、『富豪刑事』第4回……懲りているので、21:40頃から観る。これは正解であった。面白さは最後の5分のみにある。
 ということで、明日からまたしばらく播州龍野行きである。

2月4日(金)
 早朝の電車で播州龍野へ移動。
 さすがに寒い。が、酷寒のピークは昨日までだったらしい。
 また単調な日々の始まりである。
 「特許侵害で『一太郎』販売禁止」のニュースに関して、旧知のエヴァゲリ・Kさんからメールをいただいた。
 「弁護士は自分の得手・不得手を考えて訴訟を進められるが、裁判官は専門性を高められないところに司法制度の欠陥(さらには専門家としての倫理喪失)があるのではないか」という意見。なるほどねえ。……ついでに、最近の松下製品の欠陥の多さに体験的に触れて「貧すれば鈍する」の典型ではないかとも。
 ははは。
 おれは特に欠陥製品に当たったことはないけど。
 ただ、松下も中村くんの時代になってから、部門ごとの評価が厳しくなって、知財部門もしっかり稼げとハッパをかけられている可能性はあるな。

2月5日(土)
 播州龍野の日常。
 午後、比較的暖かくなったので、自転車で揖保川に沿って2キロほど遡行。
 小学時代、時々「鳥モチ」を仕掛けに来た場所である。
 「獲りモチ」と書くのかな? 小鳥が止まりそうな枝に塗りつける粘着性のある粘弾性物質で、トリモチといってた。メジロとかホオジロなどの捕獲を狙う、ゴキブリホイホイのハシリみたいなものであったが、うまくいったたしめしなし。
 off
 このあたりの雰囲気は50年前とさほど変わっていない。
 老母の証言では、上流に引原ダムが出来て、水量が激減し、景観も一変した。
 それ以来、あまり変わらない。水量だけがジリ貧ということらしい。
 ダム完成の時のことは覚えているが、それ以前の景観は記憶にないなあ。
 夜、サンテレで『シンシナティ・キッド』を見る。30年ぶりかな。
 タイトルバックの「ニューオリンズの葬送」と中ほどにあるジョージ・ルイスの演奏場面だけがいい。あとは中途半端な映画。
 マックイーン版「ハスラー」を作ろうとした意図はわかるが、女性関係が変だし、肝心のポーカー場面に迫力がないのがいかん。何よりもマックイーンがチンピラにしか見えない(確かにそういう設定なのだが、そこから這い上がっていこうとする執念が皆無)、動きのない演技は無理なようだし。やっぱり「活劇俳優」であったことが確認できる。

2月6日(日)
 播州龍野の日常。
 老母の「確定申告」の準備。昨年の医療費を集計する。いやはやすごいものだね。
 「親族に支払う療養上の世話の費用」は医療費にならないと注意書きがある。
 まあ、そりゃそうだけど。……おれは半分は自由業だから、どこにいても仕事はできないではない。蔵書の大半はこちら龍野にあるわけだし。
 ボンクラ・サラリーマン専業だとつらいところだ。
 誰しも「親孝行」を経費とは考えないであろうが……。
 同世代……こんな話が多いなあ。

2月7日(月)
 播州龍野の日常。
 終日、タイムマシン格納庫にこもる。
 夕刻実家に戻る。
 昨年の入院後、創作意欲が落ちたのか、あまり短歌を作らなくなっていた老母、また作り始めたらしく、メモ書きを披露。
 「やっぱり、毎日作らないとレベルが落ちる」と。
 耳の痛い話である。
 と、反省しつつも、夜は久しぶりにワインを飲みながら、LPで、鈴木章治、北村英治、ジョージ・ルイス、ラスカルズ、コルトレーン、ドルフィ。夜中になってしまった。
 こういう場合、老母の耳が遠いのは、ありがたいといえばありがたい。

2月8日(火)
 午後の電車で大阪に帰ることにする。
 14:05、姫新線「本竜野」始発のジーゼル車1両、後部席。
 イカレ気味のあんちゃん(17歳)が、ちょっと離れたボックス席にいるネエちゃん(20歳)と大声でしゃべり始めた。
 off
 知り合いなら、同じボックスへ移動してしゃべればいいはずが、ネエちゃんの前には別のおっさんが座っている。
 で、本竜野から播磨高岡(あんちゃんの下車駅)まで約20分、大声でらちもない会話の連続。
 であるから、双方の年齢、ネエちゃんのバイト先(ローソン○○店ね)、勤務時間、時給、カレシの有無、つきあい歴(さすがに、やったかどうかまでは言わないけど)、だいたいの住居、その他諸々のことが全部周囲に公開されているわけである。
 少なくとも両者間に3人の乗客、おれも含めて、周辺の「赤の他人」6人ほどには嫌でも耳に入ってくる。
 ご両人には、周囲の乗客は石仏くらいにしか認識できてないのかねえ。
 どうも先日の高速バスといい、こういう手合いに遭遇することが多い。
 ということで、夕刻帰宅。
 おおっ、『桂米朝集成』が届いている!
 第3巻にはおれが「構成」を担当した『「題名のない番組」ふたたび』が収録されているのであった。届いてびっくりというのもすごいけど。

2月9日(水)
 終日穴蔵のつもりであったが、雑件たまっていて、午後、自転車で市内をウロウロ。
 ハチにも寄る。
 プッチー・ウィックマンを聴く。
 ハチ・マスター「今夜はボーズの可能性が高い」
 W杯予選、北朝鮮との試合があるから、たぶん客はこないだろうという予想である。
 まあその可能性はあるなあ。スポーツ観戦に興味のないおれでも、「別の期待」で観ようと思うものなあ。
 天満の近くまで来たので、自転車で久しぶりに大川東岸のサイクリング・ロードを、桜宮〜毛馬堤まで北上。
 さらに淀川河川敷を城東貨物線の鉄橋あたりまで。
 このあたりが「ワンド」の最下流域かな。
 暖かく、のどかなもの。
 春の予感というよりも、花粉大襲来の直前、嵐の前の静けさなのであろう。
 off off
 毛馬閘門を渡って、淀川堤を豊崎まで。本日の走行距離たぶん20キロほどであろう。
 夜はワインを飲みながら、テレビでWカップ予選、日本〜北朝鮮戦を観戦。
 期待したようなことは起きず。
 「劇的勝利」と騒いでいるが、ありゃ辛勝だな。
 迫力では北朝鮮に押されていて、サッカーもハングリー・スポーツという印象を受ける。
 ただ、北朝鮮のGK、ソーカツされるんじゃないか。

2月10日(木)
 終日穴蔵。
 いかん、気力が落ちて、何をする気にもなれない。
 終日、あれこれ本を読んで過ごす。
 『富豪刑事』を21時40分頃から見る。
 ……最後の1分だけ見るのが正解のようである。1月20日の予想は当たっているようだ。

2月11日(金)
 午後3時頃に旭屋へ行く。
 数冊買って表に出たところ、曾根崎署から警官5、6人がどどっと走り出て、こちらに向かってくる。
 万引きがばれたか! と緊張したところ、手前の地下街の入り口へ走り降りていった。
 面白そうだから、むろんついていく。
 地下2階の飲食店で何かあったらしい。
 人殺しか……と期待したが、店の表で「一見労務者風」を囲んで何やら事情聴取。男は抵抗するでもなく、ふてくされた感じで何かしゃべっている。近くまで行ったら、オワマリのひとりに「あっち行って」という目つきで睨まれた。
 店内で暴れた様子もなし、無銭飲食の雰囲気でもなし。
 一応、デジカメで記念撮影したけど、公開はまずいな。
 5分ほどして、おとなしく曾根崎署へ連行されていったが、何だったのだろう。
 午後3時25分の出来事である。

2月12日(土)
 終日穴蔵。

2月13日(日)
 終日穴蔵。

2月14日(月)
 早寝するが、夜中に地震。
 0時20分頃。ズシンと一発だけの衝撃で揺れはなし。どきんとするね。
 あと、眠れなくなって、朝まで雑読とうたた寝の繰り返し。
 ということで、朝を迎える。
 早朝の電車で播州龍野へ移動。
 またしばらく酷寒の地での生活である。

2月15日(火)
 播州龍野の日常。
 寒いと覚悟してきたが、案外暖かく、花粉もまだ飛ばず。
 天気予報は午後から明日にかけて本格的な雨と確信的に報道、午前中に2日分の買い物を済ませる。
 陋屋に閉じこもって原稿を書く生活スタイルを作らないとなあ……と思いつつ、夕刻から老母の夕食につき合ってビールを飲む。
 昨日の寝屋川市での小学校教員殺傷ニュース。
 夕方のNHKニュースでは、全国区でやり、地方で続けてやる、しかも関西版でも繰り返し放映、出てくるコメンテーター(地元の同級生とか近所のオバハン)が色々変わるものだから、老母がちょっと混乱。
 母「またあったんかいな」
 俺「同じニュースをやっとんやがな」
 母「別の人がしゃべってるさかい、また似た事件かと思うがな」
 俺「さっき地方ニュースに変わったんや」
 母「それがごっちゃになりまして……」
 いっしょに「わてホンマによういわんわ〜」
 ブギの女王を知らない世代には通用しないだろうな。
 が、老母の、米寿を迎えてのこのアドリブ力、なかなかのものではないか。


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