『マッドサイエンティストの手帳』728

●マッドサイエンティスト日記(2020年4月後半)


主な事件
 ・(新型コロナ禍により)穴蔵の日々


4月16日(木) 穴蔵
 晴。終日穴蔵にあり。
 外は初夏のようである。
 ベランダから見るに、新御堂筋のクルマは少ない。
 人通りも少ないので、堂山町の画廊ワイアートギャラリーへ行ってみようか迷ったが、堀晃作品出展の「幻の美をもとめて」は中止のようである。
 残念だがしかたあるまい。

4月17日(金) 穴蔵
 晴。朝、定期検診で近所の某医院へ行く。
 薬だけ処方してもらって帰るつもりが、待合室はゼロ人である。
 それなら診察(血圧測るだけ)も受けるかと診察室に入ったら、センセイ「今日は健康診断の日ですね」……毎春の「行事」の日であった。
 拒否しにくく、心ならずも血圧・検尿・レントゲン・心電図・採血。嗚呼。
 15分ほど。「客」は他にひとり。まあたぶん「感染」はしてないだろう。数値はすべて良好であった。
 薬局に処方箋を出し、ドアの外側で待って薬を受け取り退散。
 医者へ行くのも命がけである。
 後は穴蔵にこもる。
 ややこしい雑事の多い日である。
 いずれも集合住宅関係。総会を文書で済まそうとすると、一年分の領収書ファイルを(形式的にだが)チェックしてくれとか、その他いろいろ。
 ま、5月半ばまでの忍耐である。

4月18日(土) 穴蔵
 朝だ。雨が降っている……が、すぐにやみ、晴れ間もあり、浅田飴を舐める時間もなかった。
 土曜である。世間は休みのはず。おれもつきあって休む(仕事しないの意)ことにする。
 終日穴蔵にてボケーーーーッと過ごす。
 ただし昼前「買い物当番」なので30分ほど外出(お上のいいつけに逆らい、慚愧にたえない)する。
 近所の公園。
 夜来の雨にも負けず、まだ数本、桜が咲いている。
  *
 今年の桜花の寿命は長い。3週間ほど持つのではないか。
 人類滅び桜花だけが残る未来が浮かんでくる……「見事散った」のは人間だけで「桜花」はAI搭載機だったのである。
 ……などと愚考しつつ、ヤマタツまで行ってトンカツとポテサラを買ってくる。
 夕食用のつもりであったが、暖かいうちに食べたくなり、キャベツのザク切りも並べて、昼間から盛大にビール。
 よろしいなあ、自宅引きこもり。

4月19日(日) 穴蔵
 曇、時に晴れ間もあり。
 終日穴蔵にあり。仕事は皆目……
 本日より、生活は少しまともな方向に修正できそうである。
 実は、この10日ほど独酌生活が続いていたのである。
 専属料理人が「微熱があるから食事は別にした方がいい」と言いだしたのが、緊急事態宣言「発出」の日。
 37℃あるという。
 熱は翌朝に治まり、普通に掃除洗濯もしているのだが、なんとなく気味悪いというので、3日に1度くらいの買い物はおれが行い、食事は別、実質別居生活をつづけてきた。
 これはこれで楽しいのだが、食事は偏り、つい飲み過ぎてしまう。
 くどいようだけど、37℃はひと晩だけ。しかし、これくらい心配性でいいと思う。
 明日から普通の生活に戻すことにした。
 本日は最後の独酌、雑多な材料整理のひとり鍋。18時頃から飲み出して……ちょっと仮眠、目覚めれば日付が変わっていた。
 ということで、片づけ終わってから書いたのがこれ。
 明日から(今日からか)普通の日常に戻る……予定。

4月20日(月) 穴蔵
 終日穴蔵。
 じっとしていることが苦にならず、アタマを使わないのがいちばん樂だとわかってきた。
 ボケーーーーツとしてたら、たちまち夕刻。
 集合住宅の理事会の日。
 先日の資料配付と賛否の確認で終わったものと思ってたら、管理会社の担当が来て、年次決算報告と監査は必要という。
 集会室のドアと窓を全開にして面談、押印。併せて通常集会(総会)の打ち合わせ。理事長はつらいよ。
 5月の総会も文書だけでは済まず、日時を決めておれ(理事長)ひとりで開催、議決権行使書提出で誰も来なければシャンシャンだが、どうしても出席して意見を述べたいというのがいたら、拒否はできないらしい。命がけである。
 各社、今年の株主総会はどうなるのか。 楽しみなことである。
 夜は10日ぶりに専属料理人の料理で晩酌。
  *
 粗食である。自分の食欲に合わせたらしく少量。
 おれも運動してないから、量的にはこの程度でいいのだが……

4月21日(火) 穴蔵
 終日穴蔵。
 朝から、昨日の理事会の報告書を作成、資料に添付して配布。
 ひと仕事した気分になり、あとはボケーーーーッと過ごす。
 ニュース雑感。
・新コロナ感染者ゼロの「地上の楽園」で金三胖が重体!?
 刮目して見守りたい。
・淀川花火大会が今年は中止。
 天神祭の船渡御と奉納花火(7月25日)はすでに中止が決まっているが、8月の淀川花火も。
 驚きはしないが、淀川花火は毎年「ハチママ誕生日」の頃であり……この日のライブも恐らく中止になるだろうな。
 ハチの密閉空間に椅子をギシギシに並べての密集密着は無理だろう。
 何よりも演奏者に配慮せねば……
 この夏は、わが半世紀最大の曲がり角(その先は地獄八景の世界)になりそうな。

4月22日(水) 穴蔵
 終日穴蔵。
 本日も集合住宅関係で雑事。要するにマンション内で新コロナ感染者が出た時の対応である。
 わが任期は5月半ばの総会終了までだが、その間、緊急事態宣言の期間中であり、連休がある。
 おれが判断しなければならぬのは共用部分だけだろうが、迷うところ多し。
 マンション管理業協会の「感染症等流行時対応ガイドライン」が一応参考になる。
 しかし、具体的な対処はおれがやらねばならぬ。
 差しあたり、集会室の使用に関しては規約があるが、インフルエンザ等についての定めはない。これは「内規」を定めて管理人に伝える。
 エレベーターについては悩む。ボタン押しその他でマナーの悪いアホが多いが、当面放置。マスクなしのが途中から乗ってきて、咳き込んで飛沫を撒き散らし、喧嘩になって警察沙汰になるとかを待つしかないようだ。
 ゴミ出しのマナーもひどいものだが、いまさら。
 おれひとりで悩むことでもないな。しかし理事会(集会)開催というわけにも行かず……感染者が出ないことを祈る他ない。
 あとひと月、理事長はつらいよ。
 昼食時、専属料理人が「また近所に新規開店のビストロがある」という。
 聞けば3月21日に開店した「ぎんすけ」の斜め向かいらしい。
 午後、見物に行ってみる。
  *
 中津の路地「ラタトゥイユ」という店に盛大に花が並んでいる。
 物好きなのが数人、パスタを食べておる。
 最悪の時期によくやるよ。
 斜め向かいの「ぎんすけ」は開店早々、5月7日まで休業中というのに。
 いつまでもつか……ともかく諸悪の根元はミルクボーイだからな。

4月23日(木) 穴蔵/大津毛織讃
 終日穴蔵。
 相変わらず雑事が発生、すべて電話とメールで処理できるから助かる。
 ちょっと……いや、大いに気になるニュース。
 おれは原則として政治・宗教・血液型については書かないことにしているが、これは政治の問題ではあるまい。
 2枚3300円のマスク事件である。
 4月17日の記者会見で、安倍晋三が、全世帯に配布するマスクについて批判があると質問をした朝日の記者に対して、「御社も2枚3300円で販売していたと承知しております」と揶揄するような発言をした。
 これがネットに「朝日のぼったくり商法」みたいに拡散した。
 ところが、これは泉大津市が市内の繊維メーカーに呼びかけて製造販売しているマスク(480円〜2枚3300円、綿や絹など素材は様々)の中の最高級品で、定価である。
 4月22日に泉大津市の南出市長が上京、首相官邸を訪れ、(安倍には会えなかったが)木原という補佐官に同市の取り組みの意義を説明した。
 安倍晋三のデタラメ発言と苦しい弁解は毎度のこと。
 ここではマスクのことのみ書いておく。
 2枚3300円のマスクのメーカーは大津毛織である。
 この会社は昔からよく知っている。わが社のタイムマシン(時速1時間の未来行き専用機で繊維物性を測定する機能も備えている)2機種のユーザーであり、何度も訪問している。品質意識が極めて高い会社であり、製品は織物だが、糸段階から、その品質管理は徹底していた。微妙な肌触りとか僅かな毛羽立ちにムラがないかとか、目視や人間の触覚よりも遙かに高いレベルで厳しい品質を維持しているのである。
 2枚3300円は正当な価格と思う。
 安倍晋三が配布する「虫や髪の毛が混じった」マスクとは品質レベルが桁違いなのである。
 大津毛織のために、それだけは証言しておきたい。
 おれもこのマスクを使いたいが……おれが30年近く勤務した会社も繊維会社で、マスクも作っており、その時の備蓄品がまだあるからなあ。

4月24日(金) 穴蔵
 終日穴蔵にあり。
 やはり集合住宅関係の雑事が数件。週末だからであろう。
 おや、山田敬蔵氏の訃報。92歳。元気に生きてはったのだ。
 とはいえ、おれはご本人をテレビなどで見たことは皆無。
 小学時代に見た『心臓破りの丘』の根上淳の印象を覚えているだけである。
 (この映画も、マラソンシーンよりも親父同士が相撲を取る場面の方が記憶に残っている/65年前だ。)
 たちまち夕刻。
 専属料理人の並べた標準的メニュー。
  *
 グラタンでビール、中本酒店推奨格安馬鹿旨ワインを少しばかり。
 早寝するのである。

4月25日(土) 穴蔵
 快晴。まるで五月晴れである。
 散歩すれば気分よさそうだが、お上のいいつけを守って終日穴蔵。
 ほとんどタドコロ状態(←なーんもせんまま9時から17時まで過ごすこと)で過ごす。
 外出自粛にカラダもアタマも慣れてきたようで恐ろしい。
 昼、BSで『座頭市鉄火旅』を見る。初めてのはず。笠原良三脚本だから期待してなかったが、その通りであった。
 マンネリ化しはじめた、シリーズ後期になるのか。座頭市の名が「業界」では知れ渡っている設定になっている。
 刀鍛冶(東野英治郎)の「あとひとり斬ったら仕込みが折れる」という予言が唯一のミソだが、生かし切れていない。
 チャンネル替えたら『ジョーズ』をやっていた。ま、こちらはもういいか。
 いかんなあ。
 さっぱりアタマが働かなくなった。
 最大の関心は、その病状に関して「情報が錯綜している」某デブのニュースだが、進展なし。
 明日の「衝撃のニュース」を期待して、ビール飲んで早寝。

4月26日(日) 穴蔵
 晴、午後は曇ってくる。
 お代官様のいいつけを守って、本日も終日穴蔵にこもる。決して逆らわないのでごぜえますだ。
 午前、色々「候補作」を再読して過ごす。
 午後、BSでマカロニの『殺しが静かにやって来る』を見るが、冒頭シーンがあまりに冗長で、2分ほどで切る。
 たぶん……テレビと映画館の違いだろう。外出自粛が続いてイラチがより進行しているのかも。
 本は休憩しつつ(あるいは飛ばして)読める。映画は我慢できない。CDも曲を飛ばすことが増えた。
 小説は結局、時間芸術ではないのか。このあたりは大いに悩むところだ。
 たちまち夕刻。
 専属料理人の並べた粗食で一杯。
  *
 ビール、引き続き冷やした吉乃川(中本酒店推奨品)を一献。うまっ。
 早寝するのである。

4月27日(月) 穴蔵/Zoom
 晴れて暖かく、衣替えを行う。
 今年は衣服に関しては「春」がなく、冬から初夏へひと飛びの感あり。
 セーターや防寒系衣服の洗濯を専属洗濯婦に命じる。
 3〜4月は、出歩かず、基本的に終日パジャマのまま過ごした。
 着替えずに過ごせるのは何よりである。
 新コロナ収束後も、このスタイルが主流になるのではないか。
 終日穴蔵。
 午前、資料再読、メモ取り。
 午後、Zoomを使用して初めてネット会議を行う。
  *
 こんな感じ(いちばん上がデジカメで撮影中のおれ)。パソコンにカメラがないのでスマホで参加である。
 延々4時間近く、それなりに面白い体験になった。
 なるほど授業にも飲み会にも使えそうな。
 新コロナ収束後も、この方式が主流になるのではないか。

4月28日(火) 穴蔵
 晴。終日穴蔵。
 お上の指示(外出自粛)に従うのが楽しくてしかたがない。
 もともと閉じこもり体質で、服従してではないのだが、これだけいいつけを守っているのだから、少しはご褒美をいただいてもいいのではないか。10万円? 少ない! おれを安く見るな。
 何かと雑事多し。
 マンション保険の交渉、内規の作成(内装工事業者にマスクしてない不届き者が多く、注意しなければならぬ)、修繕工事の延期にともなう処置その他……連休に入れば雑事は減るだろうが。理事長はつらいよ。
 たちまち夕刻。
  *
 北梅田の夜景を眺めつつ、粗食(でもないか、5皿ほど)でビール、中本酒店推奨格安馬鹿旨ワインを少しばかり。
 夜景にはピアノトリオがいいなあ。トミフラ師匠、バロン師匠、モンク師匠。
 ハートンホテルは真っ暗(上階1室だけ明るい)である。他のホテル、推して知るべし。

4月29日(水) 穴蔵
 大型連休の初日なのであった。
 お代官様のいいつけを守って穴蔵で過ごす。
 おっ、創元SF短編賞の発表である。
 えっ、受賞者は折輝真透(おりてる まとう)というのか。知らなかった。
 ……などと、とぼけるのはやめるが、選考の翌日に、応募時の筆名とは別に、ミステリーやホラーで受賞歴のある作者と判明したのである。
 ま、こちらの鑑定眼もそう曇ってなかったともいえるが……ぜひともSFで(こちらが本命と思う)がんばってほしい。
 午後、お代官様のいいつけに背いて外出する。
 豊崎西公園南側のポストまで往復、5分ほどだから、どうかご容赦くださりませ。
 公衆便所横にはまだソメイヨシノが咲いている。
  *
 今年は4月末でも桜が楽しめる。お代官様のおかげです。

4月30日(水) 穴蔵
 定刻4時に目覚める。ゴミを出しに出る。唯一の「外出」である。
 6時頃にひとりで朝食。
 布団に潜り込んで本を読む。
 昼は天ザル。
 午後も布団に潜り込んで読書。目が疲れて、半分はうたた寝。
 たちまち夕刻。
 専属料理人の並べた数皿でビール、中本酒店推奨格安馬鹿旨ワインを少しばかり。
 早寝するのである。
 無為に過ごした4月が終わる。嗚呼。


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