『マッドサイエンティストの手帳』646

●マッドサイエンティスト日記(2017年1月前半)


主な事件
 ・完全寝正月(1〜3日)
 ・New Year Jazz Party 2017(8日)
 ・堀川戎(10日)
 ・播州龍野いたりきたり(11日)


1月1日(日) 元日/寝正月
 早寝したら午前2時前に目が覚めてしまう。年が変わっていた。
 未明まで宮内悠介『カブールの園』を読む。今回の芥川賞候補である。感想は後ほど。
 午前6時に起きる。
 午前7時半頃に「自宅」へ行って新年の朝祝いを執り行う。
 今年は準備期間が短く、おせちはスモールサイズ。おれにはこの程度がいい。
  *
 呉春(特吟)を開ける。うまっ。
 雑煮も。久しぶりに餅ひとつを食す。
 朝酒で酔っぱらい、あとは朝寝……午後の軽食のあとも眠り続ける。
 風邪とはいいきれないが、昨年末から喉の調子がおかしく、体調もいまひとつ。本日は本格的「寝正月」とする。
 たぶん2、3日中に回復するであろう。

1月2日(月) 寝正月
 いかん。熱はないものの喉不調に鼻水が加わり食欲もなし。
 風邪薬を服用、寝正月に徹する。
 文庫1冊、新書1冊。食事は最小限。

1月3日(火) 寝正月
 体調いまひとつ。
 朝は専属料理人にトースト1枚とミルクティ、みかんを穴蔵に運んでもらう。
 風邪薬飲み、またベッドに潜り込む。
 昼はうどん。
 念のため、午後もベッドで読書とうたた寝の繰り返し。
 ずっと寝ているというのは苦痛であるなあ。寝たきり生活というのは地獄であろう。
 夕刻、なんとか回復してきたような。
 シャワーは見合わせ。パジャマの上に防寒着でコソコソと自宅へ行く。
 暮れにHIOKIのオリーブオイルを南国方面からいただいたので、フランスパンにこれをたらして食す。
  *
 うまっ。風邪気味の鼻でも、爽やかな香りが鼻孔を抜けていくのがわかる。
 日置といえば、おれはテスターしか思い浮かばなかったが……
 これでやまざきから届いたやや高級なワインを少しばかり調子が出て数グラス。風邪にトドメを刺せればよろしいが。
 ともかく早寝。

1月4日(水) 穴蔵
 早寝(というより、ずっと寝)したら午前2時前に目が覚める。
 体調はほぼ普通に戻った(ように思える)。体が気持ち悪く、今年初めてのシャワー、洗髪もする。すっきりした。
 テレビで『地球が静止する日』をやってるのでしばらく見るが、クソガキが進行を邪魔する(ハリウッドのじらし手法/アクションものでよくやる手だがSF映画で使うのは最低/これやるとSFがパニックものに堕ちる)展開にイライラして見るのやめる。オリジナル『地球の静止する日』もたいした作品ではなかったし。
 朝まで雑読。
 朝食以降、普通の生活パターンに戻す。4日からは世間も普段通り仕事(のはず)だからなあ。
 今年は3日間、正真正銘の「寝正月」であった。
 午後、某リサイタルがあるのだが、残念ながら見合わせる。
 まだ体力に自信なく、とても人混みに出る気分にならない。
 マスクして公園横のポストまで往復。今年初めての外出である。
 空がかすんでいるようで、PM2.5かと調べたら、大阪は20〜25くらいであった。
 本日526歩。
 本は色々と読んでるので、年末あたりから読んだ本のことを、しばらく集中して書いておくことにしよう。

『小松左京の猫理想郷』と『小松左京さんと日本沈没 秘書物語』
 小松師匠がらみの本が2冊。
 『小松左京の猫理想郷』(竹書房)と乙部順子『小松左京さんと日本沈没 秘書物語』(産経新聞出版)である。
  *  *
 前者「猫理想郷」はネコトピアと読む。帯には「SFという人を喰った話で猫を喰わせてきました」とある。小松さんの、猫関連の作品、エッセイ、対談、座談を集成した、なんともぜいたくな本である。
 「猫を切らしたことがない」(という発言もどこかであった)小松家の「ネコクロニクル」もあるが、おれが実物を知ってるのは2匹かな。それにしても「オモロ大放談」のギャグ密度とレベルの高さには改めて驚かされる。
 編者のひとり、次男坊「小松実盛」……このペンネームの由来は、盛実→モリミノルなんだろうな。
 乙部順子『小松左京さんと日本沈没 秘書物語』は小松さんの後半生34年間を秘書として支えてきた乙部さんの小松左京秘録。産経に3年半連載された「小松左京と秘書のおかしな物語」に加筆、さらに他の記事も加えて再構成されたもの。
 乙部さんは77年からアシスタント、80年代から東京の秘書として活動されていて、おれもこの頃に挨拶している。大阪事務所にもよく来られた。ともかく30年以上、いちばん身近にいた人だから、エピソードの密度がけた違いである。驚かされることばかり。
 ここに書かれてないことをちょっと。
 「医者嫌い」であったのは書かれているとおり。米朝師匠が「あの体型やから、検査したら何か出てくるのに決まっとる。それが怖いから医者に行きよらんのや」と心配?されてたものである。ところが80年代後半だったと思うが、何を思ったか健康診断を受けた。と、別に悪いところは何もなかった。さあ安心して、それからさらに酒量がアップ……という話を仄聞した。
 「行くのは目医者と歯医者だけ」……これも事実だろう。しかし、歯医者の腕はいまひとつではなかったのか。小松師匠、よく(プライベートでは)入れ歯を外してしゃべるクセがあった。うまく合ってなかったのではないか。頬がへこみ、老人顔になり、早口でモゴモゴしゃべりになるから聞き取りにくい、しかしよく聞けば話は理路整然としているのである。あの入れ歯の値段を聞いて、「米朝一門の主治医」ともいえる歯科医Hはんが仰天した。「そんな高い入れ歯ありまへんで!」……真相は不明のままである。ちなみに、おれは80年代末にHはんに数ヶ所直してもらい、今も快調である。その後、大学病院から遠方の実家での開業となり、信頼できる歯科医を紹介してもらって今日にいたる。死ぬまで入れ歯は必要ないだろうといわれている。諸君、歯科医は阪大歯学部に限りまっせ。

眉村卓『終幕のゆくえ』(双葉文庫)
 眉村さんの書き下ろし!短編集である。
  *
 ショートショートから30枚ほどの短編まで20篇、すべて書き下ろし。
 主人公(語り手)は、若くて67歳(「自分史」)、多くは70代の独居生活者である。本名が村上という作家や、卓二という宮沢賢治ファンなど、明らかに作者の分身みたいな設定も多い。「幻影の攻勢」(←別にパロディではない)というタイトルがあったり。ということで、奇妙な状況やおかしな依頼や不気味な人物に出会うパターンが、心境小説的パターンで処理さていて、あとがきにある「カーテン一枚距てた隣」の異世界という、不思議な読後感を残す
 アイデアはいずれも新鮮。眉村さんは昔から数多くのアイデアを手帳に書き残されていて、何度が見せていただいた。ほとんどが1行で20字くらいである。だが、説明を聞くと、へえっと驚くべき展開を含んでいるのである。しかも「アイデアは惜しんではだめですよ。後から必ず出てきますから」と教えられた。
 本短編集もすべて「最新のアイデア」であって、非常に現代的であり刺激的である。
 一例を挙げると「嫌われ度メーター」……対面している相手が本音ではどのくらいこちらを嫌っているか、そっと計れるメーターが登場する。これが人間関係をどう変えるか。眉村展開は作品を読んでほしい。
 時々雑誌で、皇族や政治家やタレントの手振り写真を拡大して「手相」を見る企画がある。おれはあれが嫌いで、掌の写真は撮られないよう注意している。観相学、人相見はしかたないか。だが、表情や仕種から心理分析やるコメンテーターがいたり、動画にも注意しなければならぬ。こちらの内面を勝手に憶測されて愉快なはずがない。しかし、動画解析で心理分析を行うアプリなんて近い将来登場するのではないか(もうあるのか?)。ともかくスマホを構えられるのには警戒しなければいかんぞ……と「嫌われ度メーター」から、こんな想像が広がるのである。

1月5日(木) 穴蔵
 体調は普通に戻っているようだが、念のため、終日穴蔵にこもる。
 出歩くのがまったく面倒になってきた。
 ボケーーーーッと過ごす。

福田和代『緑衣のメトセラ』『広域警察極秘捜査班BUG』
 福田和代さんの活躍は今や流行作家である。
 作品の幅もずいぶん広い。パニックものや『潜行せよ』『生還せよ』のシリーズ、航空自衛隊を描いても、カノンの音楽隊シリーズと『天空の救命室』では雰囲気がまるでちがう。いずれも面白いのだが、ここでは最近の2作について。
  *  *
 『緑衣のメトセラ』(集英社)……要介護の母と古いマンションに住むアキは、一応ライターだが、実態はブラック・ジャーナリストまがいの記事を作るデータマンである。近くの高級老人ホームが「ガン発生率が異様に高い」という噂を聞いて、ネタにならないかと調べ始めるが、併設の病院でアルバイトしていた知人の青年が「感染症」で急死したことから、その病院に疑問を抱く。極めて評価の高いその病院の奥で、いったい何が行われているのか……。帯には「サイエンス・ミステリー!」とあり、女性ライターが色々な方向からその内部へ迫っていく過程は見事なサスペンス小説である。
 ただし、ネタバレにならない範囲でいえば、これはSF、しかも新しい装いの「マッドサイエンティストもの」である。描かれるマッドサイエンティスト像はきわめて現代的で特異でスマートである。2016年度SFの大きな収穫のひとつであろう。
 『広域警察極秘捜査班BUG(バグ)』(新潮社)……主人公・水城陸は天才ハッカーであるが少年死刑囚である。560人殺し。ハッキングして旅客機を墜落させた(本人は否定)からである。父は陸の逮捕後に自殺している。成人したら執行されるばず……だが、ある機関から取引を持ちかけられ、死刑免除の代わりに国際的な特務機関への参加を持ちかけられる。水木は公式的には死刑執行され、別名で「BUG」という秘密組織に入る。ある一軒家に集められたのは怪しげな経歴の4人。ハッキングやプロファイリングの特技を持つが、秘密の過去を持つらしい。特命はある天才数学者の行動追跡。だが、そのミッションを続けるうちに、水城は背後にある国際的な謀略に気づく。それは自分の「冤罪」にも関わるらしい……
 久々に福田和代さんの「原点」を感じさせる力作。原点というのは「金融機関」で「システム構築」を手がけた経歴(←著者紹介)に密接に関わっているからである。特に「国際金融」に関わる部分は極めて現代的なテーマである。それに、なんといっても「16歳で死刑判決」を受けたという設定がすごい。
 このチーム、より近未来的国際犯罪に挑んでほしいと思う。

1月6日(金) 穴蔵/ウロウロ
 午前3時頃に目覚める。もう少し夕刻に不摂生すれば起床時間が遅くなるかな。
 終日穴蔵。
 ボケーーーーッとタドコロ状態で過ごす。
 いかん、運動不足である。今年になってほとんど歩いていない。
 午後、空が晴れ上がり暖かそうなので「西回り」散歩。
 富島神社に今頃初詣、許永中の実家あたりから南下、スカイビル農園を経て、地下道を抜ける。
 うめきた第2区域、大阪駅北側の新駅の掘削がはじまっている。
  *
 これから数年、こんな眺めが拡大していくのだなあ。
 ヨドバシ〜紀伊国屋〜ジュンクドー経由で帰館。5,472歩。
 足がやはり疲れる。毎日歩かねばいかんなあ。
 和風メニューで呉春一献。早寝…はせず、23時頃に就眠のつもり。

田中啓文『鍋奉行犯科帳 風雲大阪城』『漫才刑事』
 どこまでアホなことを考えるのか、相変わらず、田中啓文氏が快調である。
 2016年は、アホの見本市みたいな『地獄八景』が抜群の短編集だったが、ちょっといいジュブナイル『落語少年サダキチ』があったり、さらに年末にも2冊刊行。
  *  *
 『鍋奉行犯科帳 風雲大阪城』(集英社文庫)は気がつけば、もうシリーズ第8巻、酔笑亭梅寿シリーズを抜いているのだ。
 今回は、将軍上洛ということで西町と東町の奉行が饗応の料理メニューを争う「風雲大坂城」と、けったいな坊主の強盗団に久右衛門の偽者登場がからむ「偽鍋奉行登場!」の2篇。梅寿同様、相変わらずの傍若無人ぶりだが、無茶苦茶やりつつも、時代考証が細かいところまで行き届いているのに感心する。参考文献のひとつに大田南畝全集があって、おれも南畝関係はちょっとした興味から色々読んだのだが、どの部分に反映されているのかわからなかった。(作者は教えていただいた。四天王寺が落雷で焼失した時、蜀山人に大坂にいて、日記にこの事件を記録しているという。事件に関するいちばん詳しい記録らしい。2017.1.7)
  『漫才刑事』(実業之日本文庫)……これは、漫才師が刑事のまねごとをするのではなく、刑事のコンビが漫才みたいな会話しつつ捜査するのでもない。主人公・高山一郎は府警難波署のれっきとした刑事であり、勤務時間外は、腰元興業に所属するプロ漫才コンビのボケ役・くるくるのケンなのである。そんなアホなと思うが、両親はともに亡く、父は死に際に「刑事になってくれ」、母は死ぬ間際「芸人になって」との言葉を残し、ともに反論する間もなく息を引き取ったから、両親の夢を叶えるために「兼業」を選んだのである。刑事は兼業禁止ではないか?……この、いつばれるかしれないという設定もスリリングな展開の大きな軸。全6話、けったいな事件はすべて楽屋や舞台、営業先で起こる。つまり漫才師の立場で推理するのだが、そこに難波署の刑事も現れるから、ややこしいのややこしくないの、ややこしいのであります。ともかく、綱渡りの展開で、しかも漫才まで挿入されているからすごい。これは新シリーズになるのかな。6話目が「最後の事件」だけど、ホームズだって生還しているしね。

1月7日(土) 穴蔵/ウロウロ
 晴れて気分のいい日である。
 昼間、専属料理人は出かけるというので、おれも出歩くことにする。
 地下鉄で西長堀の中央図書館へ。1時間ほど調べごとし、西へ歩き、木津川に沿ってドーム方向へ。
 穴蔵用にちょっとした用具がほしくなり、ドーム前からIKEA行きのバスに乗ろうかと思ったが、ここのホームセンターで用が足りた。
 あと川沿いをウロウロ。
  *
 岩松橋のアーチを眺める。左端のが可愛いね。
 大正まで歩き、いちゃりばにて沖縄そばを食す。
 帰館。
 穴蔵にて、少しは仕事もするのであった。

宮内悠介『スペース金融道』『月と太陽の盤』『カブールの園』
 宮内悠介さんの活躍がめざましい。昨年読んだ作品……
  *  *  *
 『スペース金融道』(河出書房新社)……宇宙金融業の取り立て屋。「宇宙だろうと深海だろうと核融合炉内だろうと零下190度の惑星だろうと取り立てる」がモットーという。じっさい、冒頭では、軌道上の宇宙港、真空中での作業現場へ取り立てに行き、債務者がちょっとしぶったとたんに宇宙服をナイフで切り裂く。帯には「新本格SFコメディ誕生」とある。
 「ナニワ金融道」の宇宙版かと読み出したら、雰囲気はむしろ本格SFである。舞台は太陽系から17光年離れた惑星で、債務者のほとんどはアンドロイドや人工知能。背景は「量子金融工学」(これは現実に研究されてる分野らしいが)で、取引速度が光速に近づくと相対論的効果が影響して、金融商品にブラックホール解が出現するとか、この種のSFギャグ続出! 本格SFがちょっと突き抜けて、SF的な仮構がギャグに転化する、いちばん面白いSFの快作である。
 宮内さんはデビュー作が山田正紀賞ということもあって、山田正紀以来の才能と評価され、その通りと思うが、この笑いの感覚は、さらに広い可能性を示している。
 『月と太陽の盤』(光文社)……これまた凄い。副題は「碁盤師・吉井利仙の事件簿」。『盤上の夜』にも囲碁が出てきたが、本作の主人公は榧の木で碁盤を作る職人。こんな世界はまったく知らなかった。囲碁の「舞台」としての碁盤あり、そこにも厳しい徒弟制の世界がある。帯には「本格ミステリー」。確かに謎解き小説であり、敵役?として偽碁盤師(このキャラも極めて面白い)も登場する。しかし作品の主題は「榧の木」である。その木を切って碁盤を作るか数十年年おくか、棋士や碁盤師の寿命より遙かに長い「榧の年輪」の描写が素晴らしいのである。棋士も事件も点景でしかない。つまり、おれには、優れた宇宙SFと同じ読後感なのである。
 『カブールの園』(文藝春秋)……今回の芥川賞候補作である(宮内さんは過去2回、直木賞候補)。帯に「はじめての純文学作品!」とある。純文学とエンタメ?(いわゆる中間小説、SF、ミステリー、その他)とのちがいはあるのか。これは「ある」。これは「様式」のちがいであり、作者の発表媒体への意識のちがいであり、創作の本質的なところではないと思うが、書き出すと長くなるし、考えもまとまってないので、ここまで。
 「カブールの園」とは精神療法の名。カブールはイスラム圏にあり、豚は食べないから、動物園に豚がいるという。主人公はサンフランシスコでIT企業を立ち上げようとしている女性。日系3世で幼少期に「子豚」といじめられたトラウマをもつ。祖父母は大戦時に強制収容されていて、3代にわたり「マイノリティ」なのである。彼女は、半ば強制的にとらされた休暇に、祖父母がいたヨセミテの強制収容所あと跡を訪ねてみる気分になる……
 マイノリティとしての日系人という設定は斬新で、幼少期をニューヨークで過ごした体験も影響しているのかも。英語、ルビなどが混じる文体も新鮮である。そして「異文化を生きる」主人公の心象は、「ヨハネスブルグ……」「エクソダス症候群」「アメリカ最後の……」などとも重なるのである。
 で、芥川賞(1/19)はどうなるか。おれは自慢じゃないがこちらで「(宮内さんは)芥川賞に近いのではとひそかに思っている」と予言している。受賞を祈るが……この文体にアレルギー反応起こす委員が約1名いそうだしなあ。

1月8日(日) New Year Jazz Party 2017
 雨が降り続く。
 昼に出て、地下街を抜けて、梅田新道のスーパードライへ。
 13時〜新年恒例「New Year Jazz Party」、トラッド系8バンドが出演、各30分の演奏、4時間である。
 盛大なる老人会の雰囲気。
  *
 今年は珍しくもサウスサイド・ジャズバンドも出演。
 ちょっと飲み過ぎ。専属料理人(受付を手伝っていた)と歩いて18時前に帰館。
 ただちに就眠。

1月9日(月) 穴蔵
 わ、早寝したら、午前1時に目が覚めた。
 夕食抜きだったので、カップ麺でビール1缶。
 また寝る。
 午前5時から普通の生活パターンに戻る。
 曇天なり。終日穴蔵にてボケーーーーッと過ごす。
 夜、専属料理人が並べた数皿(うち、イワシをオリーブオイルでなんとかの地中海漁師料理とかがなかなか)でキンキンに冷やした安白ワイン。
  *
 空に晴れ間が出てきた。
 久しぶりにトミフラ師匠を流しつつ。

北野勇作『カメリ』(河出文庫)
 ネットのあちこちで話題騒然、2016年SFの傑作のひとつである。
  *
 人類は(たぶん)滅亡した泥の世界に生きる模造亀カメリの生活が描かれる。
 舞台はマントルの丘とかフルエル塔などの名からパリを思わせるが、やがて大川の中之島の図書館が出てきたりして、大阪が重なってくる。パリへ旅行し大阪で生活するうちにこうなったらしい。
 驚くべきは第1章が独立した短編として書かれたのがどうぶつ図鑑(2003年)で、10年以上書き継がれたわけである。
 多くの書評がアップされているから、内容の紹介は略し、おれが傑作と思うのは主につぎの2点による。
 まず、これは「かめくん」の遙か未来の物語であり、わが定義では「上方SF」さらに狭義に「キタSF」の傑作である。かめくんの舞台は毛馬あたり。カメリの世界は3キロほど下流の中之島あたり。キタSFにまたひとつ傑作が加わったのである。
 もう1点は「泥の描写」のすばらしさである。「どろんころんど」もそうだが、北野作品には泥世界が多い。泥は色彩豊かとはいえず、そう多様な描写はできそうにない。ところが北野さんは、(泥饅頭なんて小道具も含めて)多様な描写で泥世界を浮かび上がられる。並の筆力ではない。北野作品に較べるべきは「ソラリス」と思う。ソラリスの海は色彩も形も多様に変化させる。レムの風景描写は素晴らしく、ソラリスの風景を眺める(読む)だけでも飽きない。北野さんはより色彩の乏しい世界でそれをやってるわけでわけである。たいしたものではないか。

1月10日(火) 堀川戎
 晴れて穏やかな日である。
 昼前に出て、堀川戎まで歩く。
 去年は福笹は購入しなかったので、返却はなし。
  *
 昼前なので、ゼンジー北京師匠はおられず、米八師匠もいてはらへん(寂しくなったなあ)わけだし、今年も福笹はなし、列の横の方からちょこっとお参りさせていただく。
 タイムマシン業、繁盛するのにこしたことはないのだが、もう積極経営はせず、依頼があれば動く方針である。
 時は金なりで、タイムマシン1機だけ置いとけば、金はわきだしてくるから、困ることはないのである(←本気にしないように、エシュロンくん)。

1月11日(水) 大阪←→播州龍野
 早朝の電車で播州龍野へ移動する。今年初めて。午前9時前に姫新線本竜野着。
 タイムマシン格納庫にて相棒の某くんと打ち合わせ。
 多額の賽銭を投げ入れたわけではないのに、早くも堀川戎っさんの御利益か、ちょっとした案件が浮上する。
 災難もあり。
 年末から3週間ほど格納庫横に放置していたクルマ、バッテリーがあがったらしく、エンジンがかからない。
 相棒の某くんのクルマのバッテリとつないだら起動した。ほっ。
 実家へ行き雑時、金融機関と半お役所的事務所をうろうろ、この間、1時間半ほどエンジンはとめずアイドリング続ける。
 「よこた」にて昼飯(あなご寿司)……この間にエンジンをいったん切ったが、無事再起動した。
 しかし、バッテリは交換した方がよさそうだ。これから寒くなるし、2週間ほどの放置が増えるからなあ。
 近所の揖保川河原に藁積み。
  *
 どんど焼きである。まだこの習慣が残っているのだ。今夜燃やすのか。確か15日のはず。ずいぶん早く作っているのだなあ。
 見物のために滞在するほどではなし。
 夕刻に帰阪。

1月12日(木) 穴蔵
 終日穴蔵。
 気分がいまひとつよろしからず、ほぼ終日DVDを見て過ごす。
 こんな時はやはり上方のお笑いがよろしいなあ。
 松竹新喜劇もいいのだが、千葉蝶三朗のが意外に少ない。
 手元にあるのでは「愚兄愚弟」の金魚屋の高橋くらい。
 「裏町の友情」は寛美・千葉蝶のがいちばんよかったし、主演した「あみだ池の鳩」もDVD化されてないようだし。

1月13日(金) 穴蔵/ウロウロ
 運動不足である。
 明日、今季最強の寒波襲来という。本日中に雑件処理と散歩と、昼過ぎに出かけることにする。
 西回りコース。貨物線に沿って、北郵便局に寄り、スカイビル経由、小松師匠への年始を兼ねてプラザの跡地まで行く(本来は箕面の瀧安寺へ行くべきところだが、寒いし、師匠といちばんよくしゃべったのは小松事務所だったからなあ)。
 プラザ跡地は竹中工務店が塀で囲っていて、中は見えない。まだ利用計画は決まってないような。
 地下道抜け、大阪駅へ。
 久しぶりにステーションシティ「風の広場」に上がる。
  *
 北風強く、雲の動き急、北摂から寒冷怪獣接近の気配なり。
 グラフロ抜けて帰館。
 1時間半ほど。6,497歩。
 夜はおでんで安酒熱燗(料理用に紙パックで買ってる剣菱/そう悪くない)少しばかり。
 早寝するのである。明日の寒波が楽しみな。

1月14日(土) 寒波襲来?
 最強の寒波襲来らしいが、午前6時、快晴でベランダは5℃。
 近畿も日本海側には大雪警報が出ているものの、大阪市内は穏やかなもの。
 昼前から雲あり、東南方向への雲の動きが急になる。
 午後、寒波がどんなものか体感してみたくなり、散歩に出る。
 淀川堤。川面は暗く、寒風強し。7℃である。
  *
 北摂方面から白ゴジラでも来ないかなと期待するが、結局、夕刻まで何もなし。
 夜は黒半の切ったんとかレンコンの揚げたんとかヒラキの焼いたんとか白菜の漬けたんとか大根のたいたんの妖女とか、居酒屋メニュー並べてもらって、れんと(黒糖焼酎)の湯割り。
 体が温まった。早寝するのである。寒波どこ吹く風。

新井淳平『シンデレラゲーム』(AMG出版)
 再起をかけたアイドルたちのサバイバルデスゲーム!
  *
 昨秋公開された映画「シンデレラゲーム」の原作である。
 解散したアイドルユニットのメンバーに再デビューのオーディションへの誘いが来る。無人島でのデスゲームに参加して勝ち残れば再デビューできる。だが、再デビューできるのはたったひとり。失格者には死が待ち受けている。
 バトル・ロワイアルのアイドル版。何か裏に救いがあるのかなと思って読み始めたら、本当に次々と死んでいく。
 恐ろしい小説だが、現実のなんとか48とかいうアイドルグループは、センターがとれなかったら、たぶん死んだも同然で残り数十年、無為に人生を送るわけで、秋本某なんてのは平気でこういうこと(少女虐殺)をやっとるのだなあ。その意味では非常に現代的な作品である。少女たちの性格、駆け引きなど、うまく書き分けられていて、ああ娘がいなくてよかったという気分になる。
 新井淳平さんは創サポに参加していた生徒のひとり。筆力は際だっていた。
 本書は初のオリジナルノベルで、実質的なデビュー作。好漢の健筆を祈る。

1月15日(日) 寒波通過?
 最強の寒波襲来らしい。午前7時、快晴でベランダは1℃。さすがに寒そうな。
 大阪府に大雪注意報。しかし、市内(梅田の北あたり)に雪は降らず、室温は(エアコン稼働前で)16℃、穴蔵にいる限り、穏やかな日である。
 終日穴蔵。ボケーーーッとタドコロ状態で過ごす。
 文吉くんの故郷・肝付での、超小型ロケット「SS-520」打ち上げ失敗のニュース。
 今年いちばん期待していた宇宙計画だっただけに、まことに残念である。
 しかし、ミニロケットによるミニ衛星打ち上げという方向は絶対に間違ってない。ぜひとも再チャレンジしてほしい(予算をつけてほしい)と願っている。
 たちまち夕刻。
 夜は鱈のなんたら小鉢など数皿。
  *
 年末に山口の良策さんが蕎麦栽培を再開したからとソバ粉を送ってくれた。専属料理人はソバ打ちは自信がないとかで、ガレットなるものを作った。クレープのソバ粉版みたいなものか。
 これで理由ありワインを少しばかり飲む。なかなか。
 早寝するのである。寒波はたぶん通過したのであろう。

横田順彌『荒熊雪之丞大全』(書肆盛林堂
 「小松左京の猫理想郷」もそうだったが、これまた贅沢な本である。
 ヨコジュンの荒熊雪之丞シリーズ全作品を収録、日本古典SF研究会が「忘年会の記念品」として発行したという。
 中の一篇「究極の方程式」……これは、おれが「連立方程式」という方程式もののパロディ集を書いた、そのひとつに荒熊雪之丞が登場する「ハチャハチャの方程式」というのがある。ところが、これだけは「奇絶、怪絶また壮絶!!」で終わっていて「解」がない。それでヨコジュンが解答を導く(と試みた?)作品である。その関係で贈ってくださったらしい。
  *
 北原尚彦氏の解説が丁寧で鋭い。ハチャハチャSFの「後世への影響力」に触れて「朝に雨が降っていれば、日本のどこかで誰かが『朝だ。雨が降っている。朝だ雨だ』とつぶやいているのだ。」……これは「おたまじゃくしの反乱」の冒頭で、いやまったくその通り。わが日記にも何度か出てくるはず。
 北原さんの評価軸は、おびただしい数のダジャレ(特にCMのパロディなど)が「昭和」を凝縮している点と、ギャグとして試みた表現形式(行数かせぎのロゴ変更とか、文字の途中での改行とか)が期せずして「小説的実験」になっている点である。
 これは確かにそうで、当時(70年代半ば)メタフィクションの方法が議論されていたこともあって、ハチャハチャSFの呼称が定着する前は、ヨコジュンのSFはメタフィクションの先を行く「メタメタSF」だといわれていた。名付けたのは伊藤典夫さんだったと思う。
 古びてないのに改めて驚くなあ。


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