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  ベーシスト・小林真人を聴く

 小林真人(こばやし・まさと)さんといえばスイング系の実力派ベーシストである。
 手持ちのCDでは、
 北村英治『Session』『Santa Clarinet』
 花岡詠二『HOT JAZZ SPECIAL』
 それにヴィブラホンの出口辰治さんフィーチャーの『Hot Mallets』
 などに参加されている。
 おれが初めてナマで聴いたのが6年ほど前、1999年暮れの浅草HUBであって、それまで名のみ聞いていたベーシストに会えたものだから、嬉しくて記念写真までお願いしたほど。
 小林さんは早稲田のニューオリンズ研出身で、ニューオリンズ系ファンの間ではよく知られた存在だったのである。
 早稲田出身のジャズメンは多いが、ベースでは望月英明さんも鈴木良雄さんもモダンジャズ研。デキシー系で純然たるプロは外山嘉雄さんくらいではないか。
 その後、神戸ジャズストリートなどで聴く機会が増え、オランダの「BREDA JAZZ FESTIVAL」では大人気、評価は国際的になってきた。
 その小林真人さんから、珍しいCDを何枚か送っていただいた。
 まったく知らなかったのもあってびっくり。
 もったいないから、少しずつ聴いてきた。
 この機会に紹介しておきたい。

 『Creamy!』(赤坂工芸音研 AKL-017)
 
 これはデキシー・ニューオリンズ系の名クラリネツト・後藤雅広、ヴィブラホンの藤井寛のグループにコルネットの下間哲が加わっている。
 後藤雅広さんはマホガニーホールで一度聴いているが、CDは初めて。
 「Original Dixieland One Step」からエリントンの「Blak And TanFantsy」まで幅広い選曲で、心地よいスイング感が楽しめる。何よりも録音がいい。

 『Echos Of The 78's Era』(abend-3005)
 HIROSHI ABE & His Orchestra
 
 これぞ貴重盤!
 バンジョー・ギターの名手・阿部寛さんが編成した「クラシック・ジャズ・オーケストラ」によるもので、78回転盤時代のミュージシャンに捧げられたもの。
 3クラ/コルネット/トロンボーン/ギター/ピアノ/ベース/ドラム+ストリングスというのが基本編成。それにゲストも。
 この3本のクラリネツトが、なんと後藤雅広、小林淑郎、清水万紀夫という編成!
 小林淑郎といえば南里文雄とホットペッパーズに参加したデキシー・クラの草分け。そして清水万紀夫さんはライブで2度聴いただけで、そのCDがないのかずいぶん気になっていた名手である。
 編成もユニークなら編曲も多彩、しかもそれぞれのフィーチャー曲も用意されていて、ジャズ・クラリネット・ファンには感涙ものである。
 実際、清水万紀夫さんの吹く「Darkness On The Delta」では涙腺が緩む。バックのギターとベースが素晴らしいのである。

 『Blue and Sentimental』(DVCD-0005)
 Yoshimasa Kasai / From New Orleans To Kansas City
 
 笠井義正といえば日本のジョージ・ルイスといわれた……と、これはぼくの18歳頃の、つまり40年以上前の記憶である。
 昭和38年、受験で上京した時に、水道橋で「スイング」という店を探した記憶がある。この時は出演されてなかった。
 演奏者としてはそれくらいキャリアのある人である。
 その後20年ほどしてレコードやCDなどで聴いたが、(たとえば河合良一さんほど徹底して)ニューオリンズ・スタイルに固執するプレイヤーではなく、スイングやポピュラーな曲(「ラブ・ミー・テンダー」を好む)も吹く、幅広い奏者であることがわかった。
 これは2003年と2004年に銀座ヤマハホールで行われたコンサートのライブ盤。
 前半が2003年の「カンザスシティ・スタイル」、後半が2004年の「ニューオリンズ・スタイル」。
 ともにドラム/ボーカルでニューオリンズ・ラスカルズの木村陽一さんが参加している。
 このコンサートは知っていて、行きたかったのだが、残念ながら日程が合わなかった。

 『AIR MAIL SPECIAL』(ADCD-1026)
 Eiji Hanaoka Plays Benny Goodman Sextet
 
 花岡詠二さんのグッドマン・トリビュート、「オーディオパーク」からの最新盤である。
 今回のCDはグッドマンのコンボ「後期」というのか、カーネギーホールの後、カンザス・スイングの影響で編成を増やした時代の曲を中心に構成されている。
 昨年の神戸JSに参加したあとの録音で、オランダのアントワーヌ・トロイメロン(ts,ss)、イタリアのパオロ・アルデギリー(p)、アメリカのブルックス・テグラー(ds)が参加、国際的編成だが、むろん気心しれたメンバーで、よくスイングしている。
 注目はチャーリー・クリスチャン役で参加しているギターの佐久間和さんで、若いが色々なスタイルに精通している感じだ。
 小林真人さんのベース、いうまでもなく、絶妙のサポートである。

 花岡詠二さんのクラ、秋満義孝さんのピアノ、小林真人さんのベース、ブルックス・テグラーのドラムというのは、今聴けるスイングでは最強ではないかと思っている。
 このメンバー、神戸JSでは稀に聴けるが、CDではないと思う。
 これに近い雰囲気なのが、愛聴盤の1枚。
 『KOBEJAZZ STREET Live Vol.2』(K99-1002)
 
 これは神戸JS事務局が出したCDで、ジャズストリートの録音ではなく、「澤の鶴酒造」の酒蔵ホールで行われたコンサートのライブ盤。
 花岡詠二(cl)、秋満義孝(p)を中心とするスイング・コンボ、ヴォーカルでキャンディ浅田が参加している。
 なによりも小林真人のベース・フィーチャー曲「I Want to be Happy」が素晴らしくスイングしていて、まさにハッピーな気分にさせてくれる快演である。

 以上、登場したクラリネット奏者を並べると、北村英治、花岡詠二、後藤雅広、小林淑郎、清水万紀夫、笠井義正……なんと日本のデキシー、スイング・クラリネットの歴史である。(レイモンド・コンデさんとの共演は無理だったか……)
 CDには残っていないが、たとえば2000年9月30日の奈良スイング・フェスでは、谷口英治、そして滝川雅弘との演奏を聴いている。
 昨年の神戸ではイタリアのアルフレット・フェラリオとも。
 ニューオリンズからモダン・スイングまで、こうして聴いてみると、小林真人さんはジャズ・クラリネットになくなてならぬベーシストということになる。
 いや、クラリネット中心に聴けばこういう評価になるのであって、他の楽器の演奏者からも、その信頼感は絶大だろう。
 今年は7月の全日本デキシー・フェスまでに聴く機会があるかなあ。

 ※あとで判明。小林真人さんはレイモンド・コンデと共演されたことが何度かあるそうな。若手では鈴木直樹さん(鈴木章治の甥っこである新進/こちらは神戸でも聴いた)とも。
 まさに日本ジャズ・クラの歴史を支えるベーシストである。
(2006.1.27)


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