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  と学会レポート『人類の月面着陸はあったんだ論』(楽工社)

 最近意外に広がっているという「アポロは月へ行かなかった」言説の、と学会メンバーによる検証レポートである。
 
 この種の冗談は昔からあった。今頃なぜかと不思議に思っていたのだが、ここまで流布しているとは知らなかった。
 したがって、ぼくには「ムーンホクサー」の実態を紹介する前半がまず新鮮であった。
 特に2003年大晦日、紅白歌合戦の裏番組で放送された『ビートたけしの世界はこうしてダマされた』の影響の大きさに改めて驚いた。
 後半、この影響下?に書かれた『人類の月面着陸は無かったろう論』を「徹底検証」した山本弘氏の論考が白眉だが、これに対するムーンホクサーの反応もだいたい予想がつくだけに、ヤレヤレ……であるなあ。これはむしろ巻頭にあるように「学問のすすめ」として読むべき書なのだろう。
 ちょっと思い出すことを追記。
 2003年大晦日の番組は見ていないのだが、しばらくして(巻頭で山本氏が触れているが)産経の「小米朝流私的国際学」に「これで人類の月着陸がなかったことが明らかになった」とあり、しかもその後に、湾岸戦争の時のオイルまみれの鳥の写真を引き合いに出して、「映像の真贋を見極める目を持たねばならない」といった意味の文章がつづいたものだから困ってしまった。
 そこで翌週の同紙にやんわり書いたのが下のコラム。
 
 伝わったとは思えないけど。
 『人類の月面着陸はあったんだ論』のリストにはないが、ぼくは田中光二『爆発の臨界』は重要作品だと思っている。
 『爆発の臨界』はアポロ計画がテーマではない。東京湾でのタンカージャックを描いたポリティカル・フィクションで、アポロ計画に関する陰謀は1エピソードとして出てくるだけ。
 だが、草川隆『アポロは月に行かなかった』がどちらかといえばアイデア小説で淡白な描写であったのに対して、『爆発の臨界』では、陰謀を忘れさせるために洗脳された男が見る悪夢……という手の込んだ描写で、恐ろしく迫力がある。
 その後映画『カプリコン・1』を見た時、あれ、これは前半が『爆発の臨界』、後半が同じく田中光二『大いなる逃亡』で、2作品をつないで映画化したのではないかと思ったほどである。
 こんな風にフィクションを楽しめた頃はよかったなあ……。
(2005.12.15)


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