HORI AKIRA JALINET

『マッドサイエンティストの手帳』294

●マッドサイエンティスト日記(2004年1月前半)


主な事件
 ・サンケイホールへ行く(2,3日)
 ・堀川戎に「商売繁盛」祈願(9日)
 ・ハチの受難(9日)
 ・岡町落語ランド(11日)
 ・今年のライブ聴き初め(12日)
 ・大手書店へ「版元」として出向くことなり(13-14日)

2004年

1月1日(木)
 久しぶりに眠らぬままの年越しである。
 2000年問題の時に事故を警戒して起きていたが、あれ以来かな。
 例年、年中無休の焼き肉屋でアルバイトしているボンクラ息子その2も、狂牛病の影響かどうか、年末と正月2日は休業とかで自宅にいる。
 新年のカウントダウンまで起きていてシャンパンを抜く。
 珍しくも朝7時頃まで寝た。
 分厚い朝刊を読み終えた頃に年賀状到着。
 これを眺めながら「池月」の大吟醸。
 朝酒は年に一度、この日だけである。
 いい気分になったところで「年に1個だけ食べる」餅の入った雑煮。
 餅を喉に詰めて死亡というのが感覚的に理解できなかったのが、最近、なんとなくわかってきた。ビールを飲むときでも喉での流れが悪いと感じるときがあるものなあ。餅はもうこれで生涯食べないことにするか。……と、これは今頃読み始めた筒井康隆『ヘル』の餅詰め描写の恐ろしさに影響されているもかも。
 ということで、天気はいいが、外出する気分にならず。穴蔵で時々居眠りしつつ『ヘル』を読む。こんな夢うつつ状態で読むのがいちばんいいのではないか。
 昼飯は抜き。
 夕食は、なるべく日常に近いメニューにしてもらう。
 ビール飲みながら、CDの聴き初めはやはりデフランコである。

1月2日(金)
 わ、定刻4時にきちんと目が覚めた。
 新聞休刊なので寂しい。
 本日「仕事始め」である。
 箱根駅伝を断続的に見ながら、各種のデータベースを新年度版に変更する。穴蔵(個人的書斎)用とタイムマシン・プロジェクト用。旧年データを整理してHDDとCD−Rに保管。紙の帳票類も整理したから、確定申告の準備も全部終わってしまった。
 午後、自転車でサンケイホールへ。
 新春吉例「桂米朝一門会」……中入りの時間に合わせてロビーの様子を伺いに行く。
 『桂歌之助』の売れ行き好調……のようである。
 先日持ち込んだ「看板」を目立つように置いてくれて、小米朝さんや団朝さんが直販してくれている。ありがたいことである。
 off
 後半が始まってロビーが静かになったところで記念撮影。
 あと、楽屋へちょっと挨拶に行くが、出番の終わった米朝師匠を中心に大変偉い方々でごったがえし、隅の方でちょっとご挨拶して失礼する。
 米朝一門、今年も大盛況間違いなしである。
 夜は「豆乳鍋」とおせちで、またも「池月」大吟醸。
 CDはニューオリンズ・ラスカルズとジャズ友I氏が特別編集してくれた「ジョージ・ルイス・ベストセレクション」MD。

1月3日(土)
 ちょっと飲み過ぎたせいで、5時起床。
 午後、自転車でサンケイホールへ。
 『桂歌之助』の手元在庫を搬入する。
 会場10分前、当日券売り場は凄い列なので、客として入るのは断念する。本の配達事情がどうなるかわからなかったので、前売りは買っていなかったのである。事務所に泣きつけばなんとかなるかもしれないが、これはわが美学に反するからなあ。
 ということで、本の売り場を確認して引き上げかけたら、ホール入り口で小松左京ご夫妻とばったり。新年の挨拶をする。ちょうどよかった。
 夜は北野勇作さんからもらったチーズや「偽キャビア」などでワインを飲みながら、BSで「爆笑名人大全集」……NHKが持つお笑いビデオを紹介する番組だが、カテゴリーが今ひとつ不明確。「夫婦漫才」など独立させるよりも、もっと面白いジャンルがあるだろうが。中ではボーイズものがいちばん面白い。「コミックバンド」を別に加えるべきだ。
 23時過ぎから米朝一門の番組があるのだが、眠くて起きてられない。

1月4日(日)
 飲み過ぎて、またも起床時間が遅くなる。なんと6時である。
 ボンクラ息子その1、早朝の新幹線で帰京とかで、もう出発した後であった。
 で、朝刊。
 産経新聞の「桂小米朝の私的国際学」を読んで愕然。
 大晦日に「ビートたけしの世界はこれでだまされる」という番組があったらしいのだが、それに「ぐぎづけ」になったのだという。「アポロの月着陸はキューブリックにより撮られたもので」「これでいよいよ人類は月へ行かなかったのだと確信するに至った」
 (ただしこの文章、後段が「本音」なのか「逃げ道」なのかわかりにくい書き方である。コラムとして、これはいただけない。)
 どんな番組だったのか、見ていないから言いにくいのだが、親っさんの「わしらはお客さんをだますのが商売やがな。おまはんがだまされててどないすんのや」という言葉をかみしめてほしい。読者をだましてもいいが戸惑わせてはいけない。
 終日穴蔵。少しは仕事もするのであった。
 朝刊の口直しではないが、午後10時〜サンテレで桂三枝の寄席番組があり、ゲストが桂米朝師匠。
 米朝師匠の「正月丁稚」が今年の落語聴き初めである。
 リアリスト米朝の演じる虚構の世界は最高である。
 ロマンチストの論じるリアルワールドはなあ……。

1月5日(月)
 世間は仕事始めである。
 9時前に出かけて銀行関係の雑務のみ。
 特に年始回りすることもなく、あとは終日穴蔵。
 あまり仕事はしないのであった。
 夜はグラタンその他でワイン。
 CDは後藤勇一郎の『私季』とトミー・フラナガン。

1月6日(火)
 終日穴蔵。
 少しは仕事もするのであった。
 夜、プロジェクトX特別篇「南極」を観る。昭和31年の宗谷出発は小学校6年の時であって、社会の時間に新聞記事から記録を整理したのをよく覚えている。
 一般大衆は「日本は南極へ行った」と未だに信じているのだろうか。
 あんなボロ船で砕氷できるわけがない。
 「アカグミガンバレ」なんて電報は別に南極からでなくても打てるはずだ。紅白歌合戦で電文を披露することで、国民は越冬隊が本当に南極にいると信じ込まされたのではなかろうか。きっとそうだ、そうに違いない。愚民どもは騙されていたのだ。
 これでいよいよ宗谷は南極へ行かなかったと確信するに至った。

1月7日(水)
 わ、午前2時に目が覚めてしまった。
 さほど寒くもないので、久しぶりに早朝グルメ。
 自転車で天五屋へ。が、客はおれひとりである。経営が変わって、ちと寂しくなったなあ。
 午前3時前に帰館、テレビで『黒蜥蜴』を30分ほど。あまりにも観念的で見てられない。まあ一種の珍品なのかなあ。
 終日穴蔵。
 あまり仕事はしないのであった。

1月8日(木)
 昼、セイコープロセスの井上社長自ら『桂歌之助』の増刷分を届けてくれる。
 正月休みを挟んでだが、なかなかの早業である。
 セイコープロセス(株)は迅速にして高品質しかも安い、極めて良心的な印刷会社である、とここに紹介しておく次第。北摂方面の方々、印刷はセイコープロセスへ。歌之助関係で聞いたといえとさらに値引き……があるかどうかはわかりませんが。
 3日ほど停滞していた発送業務を再開、郵便局の窓口のネエちゃんとヤマト運輸のオバちゃんに新年の挨拶。

1月9日(金)
 朝、近所の医院へ。
 年末の健康診断の結果を聞く。特に異常はなく、肝機能も問題なし。ははは。安心して飲めるぞ。ストップかけられるのが心配で正月前に結果を聞かなかったのだ。
 血圧130-70。わはは。
 今日明日、実家に行かねばならぬ予定であったのが、老母の調子がたいへんよく、特に心配なことがなくなったので、来週でいいという連絡がくる。
 大吉続きである。
 今日明日、東京では「フリン伝習伝」公演の日……予定が変わったから、今から行くかと迷うが、もう午後だしなあ。
 夕刻、タイムマシン・プロジェクトのパートナー・某くんから電話。
 野崎町まで自転車で走って行って合流。
 例年どおり、堀川戎へ「商売繁盛」の祈願に行く。
 off
 ↑某くん。エシュロンを警戒して顔は隠す。
 上から2番目くらいの福笹を購入。
 あと、近くのハチへ寄る。
 と、ハチママ、なぜか元気がない。
 あまり公にしていなかったが、昨年、階段から転び落ちて骨折、後遺症はないものの、遠距離移動は心配なところもあり、ハチママも「フリン伝習伝」断念組である。
 それもあって元気がないのかと思ったら、年末に水漏れ事故があり、40年使ってきたアルテック・バレンシアが冠水したのだという。
 アルテック、逆さにして店の隅で「乾燥中」
 off
 ↑アルテックの横で悄然としているハチママ。
 当時で2本約100万だったという。責任の所在、保険関係がまだはっきりせず、修理可能かどうかも未知数という。明利マスターがネットで探すと70万くらいで(一代後のが)あるらしいが、音質がどうか。
 ということで、サブ機として使っているJBLを鳴らしている。これもまあまあではあるけどね。
 ということで「断念組」でビール。断念会だんねん。
 これで朝から、吉→吉→凶であるが、最後に吉あり。
 朝日新聞夕刊に『桂歌之助』の紹介記事。
 マイナーな出版にもかかわらず、あちこちに好意的な紹介記事が出る。
 ありがたいことである。
 『桂歌之助』ファイルに紹介記事のコーナーを追加する。

1月10日(土)
 青空書店から「注文」、ありがたいことである。
 さっそくお届け。
 その他、土曜というのに連絡電話とメール錯綜。近所(郵便局、ポスト、ヤマト運輸)へ行く用事は多いが、遠出ができなくなってしまったなあ。
 図書館へ籠もらねばならぬ用事もあるのだが、外出していても落ち着かない。
 夕刻、かんべむさし氏来穴蔵。軽くビール飲みながら、今年最初の「ダミダこりゃ〜」検討会。
 気晴らしにサントリー5に行きたいが、ビールを飲んでいると動く元気がなくなる。

1月11日(日)
 産経新聞の読書欄に「桂歌之助」の紹介記事。私家版にこの扱いは破格である。
 短いが達意の文章に感激する。
 『桂歌之助』の紹介記事に追加する。
 午後、阪急岡町へ。
 岡町落語ランド。
 ロビーで『桂歌之助』の直販。始まったところで一般客として聴く。厳密には、今年最初の落語会である。
 桂ちょうば「尻ねじ」(だったっけ、江戸の「粗忽の使者」)
 桂しん吉「天災」
 桂む雀「雨乞い源兵衛」
 桂吉弥「お玉牛」
 桂米二「けんげしゃ茶屋」
 off off
 桂吉弥さんと桂米二さん。
 吉弥さんはNHKの大河ドラマ「新選組」に抜擢されたという。語り口も進境著しい。
 米二さんの「旦那」にはなかなか風格が出てきたなあ。
 ちょうばさん、しん吉さんは初めて聴く。孫弟子になると米朝師匠でも覚えきれないというが、確かに。
 若手は皆ハンサムである。
 楽屋で小佐田氏に挨拶。こまめに来てはるなあと感心する。
 売れ残った本を下げて夕刻帰宅。
 で、「新選組」の初回。
 桂吉弥が冒頭、池田屋襲撃の場面で山崎隊士(ただし密偵役なので乞食の格好をしている/しかもあとは6月頃まで出番なしという)として出てくるというので、注目して見る。
 吉弥好演! と一応書いておくか。
 ドラマ自体は、テンポが悪い……というか、まだぎこちないなあ。新選組の実年齢に近い配役はいいとして、かれらは幕末愚連隊なんだから、岡本喜八の「独立愚連隊」のようなキレのある演出でなければ……まあ、NHKにそんなノウハウはなさそうだけど。
 あまり人気が出そうにないな。

1月12日(月)
 世間は3連休の最終日。
 午後、専属料理人と地下鉄で上六の近鉄小劇場へ。
 「サウスサイド・ジャズバンド」コンサート、ゲストに滝川雅弘カルテット。
 今年のライブ聴き初め。
 そして、近鉄劇場が来月閉館になるので、ここを拠点としてきたサウスサイドのラスト・コンサート(近鉄での)でもある。
 サウスの2ステージで滝川4を挟むかたちの3部構成。
 off
 Dark Town Strutter's Ball から Digga Digga Doo まで約20曲。
 滝川4は「プア・バタフライ」「ドルフィン」「過ぎし夏の思い出」「チェロキー」の4曲、デキシーファンに気遣いして「スターダスト」とかポピュラーな選曲をしない姿勢がいい。
 16:30頃まで。
 帰路、谷九の寿司屋「八正」に寄る。
 午後5時前で空いるが、川藤に似た大将に睨まれるとちょっと怖いね。
 off
 といいつつ、ズワイガニや、トロをちょっと炙って脂を落としたのなどで熱燗。
 梅田で旭屋を覗いて帰宅……したのだが、翌日旭屋に「零細版元」として訪れることになろうとは夢にも思わないのであった。

1月13日(火)
 世間は連休明けである。
 朝から珍しく「雷雨」。
 半自由業としては、こんな日は穴蔵に籠もればいいのだが、そうもいかない。
 幸い、雨は8時頃に止む。が、急に寒くなり、強風。
 銀行関係、その他、下旬に上京の予定あり、チケットの予約など、朝からウロウロ。
 穴蔵に戻ると、米朝事務所の小森さんから「歌コ本」の追加電話。
 そして、昨日寄ったばかりの旭屋のN氏から電話。新聞の記事を持ってカウンターに来た人が数人いるらしい。HPをたどり、青空書房の坂本さん経由で、わが穴蔵に連絡がついたという。
 ともに新聞の紹介による反響である。
 午後、自転車でまず米朝事務所へ。風が冷たく、時に突風。自転車だと倒れそうになる。
 その後、旭屋へ。
 8階にあった事務所はマンガ売り場になり、今の事務所は「別館」にある。
 旭屋の事務所に入るなんて、20年ほど前の平井和正さんのサイン会以来じゃないかなあ。しかも「出版元」として「販売委託」に訪問することになろうとは、不思議な感慨を覚えるなあ。
 取引条件など、色々と勉強になる。
 この際、ソリトン・コーポレーションの名刺も作るかなあ。
 ということで、本日より旭屋本店の「古典芸能」の売り場に『桂歌之助』も並ぶことになった。
 帰宅すると、本日の郵便、郵便振替での申込○冊と問い合わせ○通。
 大急ぎで荷造りと案内郵便の作成。午後5時ギリギリに中津郵便局へ搬入。
 顔なじみのネエちゃん「増えましたねえ」と喜んでくれる。
 ああ、よく動いた日である。
 と、穴蔵に戻ると、ジュンク堂書店から電話。
 こちらも旭屋と同じ事情である。明日訪問、ついでに「配達」もすることになる。
 ああよく動いた日だ。

1月14日(水)
 朝、パソコンで「ソリトン・コーポレーション」代表者の名刺を作成。
 これで現在、おれの名刺は(タイムマシン関係も含めて)4種類になった。
 ボンクラ・サラリーマン時代のいちばん多い時で4種類(会社3/プライベート1)だったから、また元の雑用屋に戻ってしまったということか。
 雑用を増やすのはおれの趣味だからなあ。
 ……が、ともかく、本の流通を実体験するのは勉強になる。おれは製造業のボンクラ・サラリーマン歴31年だが、その時以来の体質か、モノの生産から流通過程の末端(お客様どころか、その廃棄や再利用)まで確認しないと気がすまないのである。
 会社員時代も、それをやらない(手を汚さない)管理部門でじっとしているアホどもはバカにしていたし、今でも軽蔑している。たとえばアホシステムに無駄金浪費の○脇とか、その他大勢。
 閑話休題。
 朝10時、自転車でジュンク堂(堂島)へ。
 芸術書・音楽書担当のUさんに「歌コ本」を届け、「桂米朝全集」、上田文世「桂枝雀」などに並べて置いてもらう。……あ、しまった、デジカメを忘れた。記念写真を撮っておくべきであった。
 中之島の府立図書館へ。夕方まで別の仕事で雑誌関係の調査。
 新潮社のPR誌「波」での小林信彦『東京少年』の連載を知る。これは『冬の神話』のリメイク版、望月「グズラ」英明さんが喜びそうだ。
 帰宅すると、某図書館などから郵便振替の注文。午後5時直前に中津郵便局へ。
 夜は必要あってCD-Rを作成する。

1月15日(木)
 本日も動かねばの日である。
 昨夜作成のモノを持って青空書房へ。
 『桂歌之助』を旭屋本店とジュンク堂書店に置くと、ちょっと不便な青空書房では売れなくなる……はずである。
 坂本さんはむろんわかっていてこちらにつないでくれたのであるが、○十冊以上売ってくださった青空には申し訳ないので「保護」措置をとることにした。
 つまり青空書房にしかない「限定品」を(著作権者の北村維久子さん了承の上で)置くことにしたのである。
 梅田からは徒歩20分、地下鉄だと1駅だが、「筒井党のメッカ」青空書房をぜひご贔屓に。
 ついでに……でもないが、梅田の三木歯科で定期検査。
 三木センセは「落語でおなじみ」歯医者のハラダはんの先輩である。
 「こないだハラダくんの紹介で○○さんが来はりましたで」
 「ああ、そうですか」
 「あの人、プロでっか?」
 「むろんプロですよ」
 「何いう名前で出てはるんです?」
 「え?」
 「米朝さんの一門なんでっか?」
 ……わが友人が「本名」で治療を受けたらしいのだが、噺家と思ってはるらしい。ま、ハラダはんの紹介となるとそう誤解されてもしかたないけどね。まして本人もSF大会で演じたことがあるわけだし。
 午後は穴蔵。
 少しは仕事もするのであった。
 夕刻はおなじみ中津郵便局への定期便。
 ネエちゃん、慣れた手つきで処理してくれる。ありがたいことである。


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