HORI AKIRA JALINET

『マッドサイエンティストの手帳』234

●マッドサイエンティスト日記(2002年3月後半)


主な事件
 ・ミニ・カンタビーレ?!を聴く(16日)
 ・ポール井上氏が来宅(18日)
 ・宝国寺・ナム・ジャズ・ライブ(24日)
 ・作曲家の大澤徹訓さんが来た(25日)
 ・北村英治〜滝川雅弘、2クラ・セッション(28日)

2002年

3月16日(土)
 2月27日にトルコ〜ギリシャ方面へ出かけたままだったボンクラ息子その1、関空から電話してきて無事帰国したという。ほっ。
 雑用片づけているとたちまち夕方。
 梅田で、久しぶりに来阪の兄、それに妹と、珍しく兄妹集合。多少ややこしい話もあり、その後、例によってサントリーファイブへ。ニューオリンズ・ラスカルズ、2ステージ聴く。
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 途中、NHKが取材中ということで、大阪の上野さん(上野管楽器)という方が、ポケット・トランペット(確か、ミニ・カンタビーレと紹介された)を持参、これで志賀さんと池本さんが一曲ずつ演奏。……4月29日夕方にテレビで全国放送されるそうである。(演奏がではなく、この楽器の由来など)
3月17日(日)
 夜、高井信さんから電話。「ネオ・ヌル」が来年で30周年になるので、何か企画を考えているのだという。
 高井さんもだけど、かんべむさしさん、夢枕獏さん、西秋生さんなどがネオ・ヌルだな。ぼくも「再生」してもらった。もうそんなに経つのか……。

3月18日(月)
 暖かく、市内移動に自転車復活である。本町界隈。
 夜……といっても午後7時半。わが穴蔵から直線距離で30メートルのところに勤務しているポール井上こと井上剛さんがやってきた。「奇跡的に仕事が早く終わった」というのである。
 一年ちょっと、ご近所に勤務であったが、4月からは谷町4丁目方向に移転という。
 送別会を兼ねてビール。
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 ポールの日本SF新人賞受賞の挨拶はかなり型破りであったが、ビールを飲みだしてからのこの人のおもしろさは、あの挨拶どころではなかった。
 これは、本人が書くべきことであろうから、詳しくは書かないが、ポイントを幾つかあげると……。
 まず、京都市内の生まれで、学部は小松左京・大森望の後輩ということになる。勤務は某(日本を代表する)通信会社であるが、その就職の動機というのがかなりユニークである。
 親っさんの職業も異色である。
 息子が小説なんぞというヤクザなものを書いていると知ったらどうなるかと心配していたが、受賞はまあ普通に喜んでくれたそうである。(このへんは荒俣宏と事情がちがう感じだ)
 受賞に関する会社(上司)の反応もユニーク。これではぼくが「二足の草鞋」アドバイスをする余地はまったくない。小林泰三に訊くのがいいようである。
 賞金の使い方も、これまたユニークである。山本一力に近いのかな。
 ……ちなみにポール井上は3年前、某エンターテインメント講座に来ていたメンバーのひとりである。
 「実習」としてこんな課題を出した。小説版「猿の惑星」(これも偶然選らばれたテキスト)から「エッセンス」を抽出して別の作品を作るトレーニング。正解があるわけではない。ぼく(講師)も対等に参加するという方式で、ぼくの「答」は紙に書いておいて伏せておいた。一応最後に発表予定。……で、10人ほどが色んなアイデアを発表していったなかで、ぼくの回答とまったく同じアイデアを出してきたのがポール井上だったのである。これには驚いたのでよく覚えている。
 つまり、なんというか、教えることなんて何もなかった人なのである。
 ヘアスタイルについても聞く。
 仕事中も例のマッシュルーム・カットなのだが、一動作で髪型を7・3に分ける特技があって、これを披露してくれた。写真も撮ったのだが、これは公表しない方がいいかな。ごく普通の会社員スタイルに化けるのである。
 うちの専属料理人が「その方がハンサムなのに」と思わず本音をいったものだから、ポールはいたく傷ついたようであった。
 結局、ワインなど飲みながら23時頃まで。なんだかゲラゲラと笑わせられっぱなしであった。無事帰れたのであろうか……。

3月19日(火)
 終日穴蔵……のはずが、集合住宅内でご不幸一件、ちょっとドタバタする。

3月20日(水)
 早朝からボンクラ息子その1のクルマ(10年もののレガシィである)で、家族そろって播州龍野の実家へ。4月から就職ということで、その前に顔を見せておくという。
 宝塚まで30分で行けたから、あとは渋滞もなく、2時間かからずに到着。
 夕方帰阪。

3月21日(木)
 昼、集合住宅関係の葬儀。
 40代なかばで、奥さんと子ども3人を残してと聞くとまことに辛い。

3月22日(金)
 東京は桜が満開で、観測史上いちばん早い開花だという。
 大阪も開花というが、近所の公園、まだ咲き始めである。
 終日穴蔵。

3月23日(土)
 朝、某掲示板でベーシスト・グズラさん(望月英明さん)の夫人・紀子さんの訃報を知って呆然。
 本日、三鷹の教会で告別式という。あまりにも急な話で、どうしていいかわからなくなってしまう。
 ノリコさんとは森山さんのライブで何度かお目にかかった……というよりも、並んで聴いた間柄である。なにしろ「グズラさんの追っかけ」なのである。意外といえば意外だが、ご主人の演奏は、練習でなければ、確かに演奏来場でしか聴けないわけである。したがって、ライブ会場では純粋に1ファンとして列に並び、ベースのよく聞こえる席をとって、ベースに聴き入っておられた。明るくて、元気そうだった。子ども好きで、子どもたちを教える教材用にと、ジュブナイルSFの推薦を頼まれたこともある。最後に聴いたのは、可児市での森山ジャズナイトだった。半年前である。
 グズラさんの心中を思うとさらに辛い。
 終日、服喪の気分で穴蔵に籠もる。

3月24日(日)
 辻元清美の政策秘書給与詐欺疑惑、ますます濃厚である。
 サンデープロジェクトの田原は明らかに辻元擁護。辻元は「ウソ」を認めつつも「事務所が貧乏所帯だったから」で、あとは「反省」を数十回口にする。貧乏だから泥棒して無罪になったという話は聞いたことないぞ。
 辻元に関しては、ムネオ喚問の時にいかがわしさを感じた(辻元というのを見たのが、この時初めてである)のだが、それを論評する前にバッシングが始まってしまった。後知恵みたいになるから、論評しにくいな。
 論理はムネオと変わらない。いや、おれにはムネオの方が誠実に見える。何が誠実かって、自己の論理(悪の論理)に誠実なのである。同じウソツキでもムネオには矛盾がない。
 夕方、和泉府中の宝国寺へ。
 ナム・ジャズクラブ。本日は、
 田中洋一(tp)井上弘道(ts)木畑晴哉(p)井上幸祐(b)東敏之(ds)のカルテット。
 オーソドックスなハードバップである。
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 20時頃まで。

3月25日(月)
 終日穴蔵。
 夕刻、作曲家の大澤徹訓さんが来宅。
 堺へ古い来歴のあるピアノを調べに来た帰路という。(武蔵野音大の講師でもある)
 昨年の、美紀夫人のリサイタル用に作曲した3曲を収録したCDをいただく。
 その一曲、「ピアノ小品集」に「小田稔先生のおもいでに」と献辞がつけられているのにびっくり。
 「あの、小田先生か?」「天文学者の小田先生です」「音楽と関係あったんかいな」「奥様が音楽関係の方で、その関係で親しくさせていただいてました」
 ……小田先生には一度お目にかかったことがある。
 1991年1月4〜6日、和歌山の白浜で行われた小松左京氏主宰の個人的シンポジウムの会場である。
 この時の記録が『十賢一愚科学問答 宇宙・生命・知性の最前線』(講談社)である。
 ぼくは「楽屋」のほうにいたのだが、楽屋といっても、石毛直道先生や高田公理はんらがガヤガヤやっていて、もう、たいへんな3日間であった。
 小田先生も奥様といっしょに来られたが、音楽の話が出てくる隙間はなかった。(唯一の「音楽」は、森本雅樹先生が「荒城の月」のメロディで「炭坑節」を歌い、ご好評に応えて、もう一曲、「炭坑節」のメロディで「荒城の月」を歌われたことくらいである。小田夫人は驚かれたであろう。わしでも仰天したもの)
 色々な縁があるものである。
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 大澤CDには「ぼくなりのジャズ」という管楽器用作品もあって、要所要所にブルーノートが使われているのが嬉しい。
 その他SFと音楽の話(大澤氏は黛敏郎門下で、伊福部昭の孫弟子に当たるから、SF音楽ではもっとも正統派の血筋なのである)など、最終のぞみ(21:18)に間に合うギリギリまで。……SFの話になるととまらないところがあるんだなあ。

3月26日(火)
 天六近くの部品屋へタイムマシンの部品を受け取りに行く。
 それ以外は、ずっと穴蔵。
 夜、7時半に辻元清美の辞任記者会見の中継を見る。
 15分ほどの茶番。
 まあ、これからは叩き放題だろうから、(ま、水に落ちた犬を撃つのも面白いけど)今さら辻元のことを書くのは気乗りしないなあ。
 が、「第一印象」というのだけは記録しておきたい。
 この女、かなりいかがわしいと感じたのは、鈴木宗男喚問の中継を見た時である。それまで、名前は聞いたことあるが、見たことはなかった。(「朝まで……」の電波芸者であったらしい。この番組、熟睡時間帯なので見たことがない)
 したがって先入観抜きの印象である。
 辻元の喚問を「歯切れがいい」と持ち上げたマスコミが多かったが、とんでもない話だ。
 マスコミ受け、有権者受け、選挙区受け、愚民受け狙いが見え見えである。
 「議論の場ではない」「イエスかノーかだけ答えろ」反論を封じた上で、「キヨミはムネオの母と同名」「疑惑の総合商社」など、用意していたシナリオを、確かに「歯切れよく」朗読してはいるが、質問の場ではなく、言葉による懲罰(罵倒)の場と考えているのが透けて見える。
 「どうしてウソをつくんですか!」これは「ウソツキ!」と罵っているわけだが、構文だけなら疑問文ととれないではない。
 で、ムネオが「わだしは誠心誠意答えている」
 この限りにおいては、ムネオの姿勢の方が正しいのである。
 証人喚問という場に対する姿勢も、論理の一貫性も(むろん、悪の論理に対してであるが)、誠実なのはムネオなのである。……その主張を支持するかどうかは別だが。
 しかし、辻元みたいな、場の論理を無視した(無知ではあるまい。無恥かもしらんが)論法は、ハナから支持できない。いかがわしさを感じたのはこの点である。
 ここで思い出したのが、わが裁判の法廷における五十嵐敬喜のやり口だ。証人尋問で、明らかに「質問」から外れての「説教」めいた言説が目立った。これは……要するに、法廷を「懲罰の場」のように見せたいがための演出なのであろう。誰に見せたいかって? 傍聴席にいた早川清にだ。ようするに「旦那をしくじっちゃたいへんだ」と、土建屋面したハゲ頭のチンカス三百代言・五十嵐敬喜も、それなりに必死だったのである。
 そうか、辻元に五十嵐の悪印象が重なっていたわけだ。こりゃ救いようがないな。
 辻元のその後の「巨悪の露見」ぶりは報道されているとおり。今さらコメントする興味もわかない。ただ、わしゃ、ムネオ喚問の時点で、この女にいかがわしさを感じていたので、その時の印象のみ記録しておく。(2002.3.30)

3月27日(水)
 早朝の電車で、タイムマシンの部品を播州龍野の秘密工場に運ぶ。
 龍野も一応桜の名所である。4月7日に「武者行列」という花見行事が予定されているが、どうなるのであろう。
 ちょっと城趾の公園まで行ってみるが、まだ五分咲き。満開は週末であろう。
 夜、帰阪。

3月28日(木)
 夕刻まで穴蔵。
 夜、穴蔵から這い出してロイヤルホースへ。
 北村英治〜滝川雅弘、2クラ・セッションである。
 19時過ぎに行ったら、早くもローズルーム(1曲目)が始まっている。
 本日、3セットだったのである。
 予約なしで行ったから、満員、最後部のカウンター席である。北村英治は見えるが滝川さんが見えない、音も、まあ周囲の雑音がなあ……。
 しかし、おかげで、1ステージが終わったところで、戻ってきた北村英治さんにご挨拶して、写真のお願いできた。(シャッターは滝川さんである)  
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 2ステージ目からは、中程の席に移動できた。
 2クラ・セッションだが、メインは北村英治さんである。
 北村英治(cl),滝川雅弘(cl)竹下清志(p),荒玉哲郎(b),石川潤二(ds)
 つまり、大阪での北村カルテットに滝川さんがゲスト参加したかたち。客層も北村ファンがメインで、リクエストもスイングのスタンダードが多い。
 しかし、メモリーズ・オブ・ユーでもスターダストでも、ソロを滝川さんに渡すと、すべて滝川流のアドリブで、この対比がすばらしい。その分、北村さんのアドリブはいつもより保守的に感じた。アンサンブルを考えた気配りとも思える。
 3セット終了23時。本日唯一のバップ「クレオパトラの夢」があり、最後は「世界は日の出を待っている」であった。
 吉川裕之がちょっと顔を出していた。どうやら秋に「クラリネット・サミット」企画中らしい。北村さんも加わるのかな。楽しみである。

3月29日(金)
 終日穴蔵。
 しかし、このところ、タイムマシン関係が8割くらい。
 午後、小雨になる。
 ボンクラ息子ども、バイトその他でいないので、夕刻、専属料理人と梅田まで歩いて、某ガード下にある小さな寿司屋へ。
 ここは、妙なかたちで取り上げられると、騒がしい客が列を作りかねないので、口外しない常連客がほとんどという店。(わしゃ常連ではありませんが……)
 10人ほどで一杯になる店。カンウター隅に座ったら、中程に奥村彪生さんがいる。現在、某紙にごく短いコラムを書いているのだが、その「前任者」が奥村さんなのであった。「味の歳時記」といって、300字ほどの料理コラムであった。
 白子の酢のもの、あとはイカ、とろ、あわび、あなご、ウニ、赤貝など専属料理人と握りをシェア。ついでに鯛のアラ煮。なんとゴボウが旨い。ゴボウは春野菜だったのかな?
 満足したので、しばらくは寿司とはお別れである。当分、一汁一菜の日々。

3月30日(土)
 珍しく「穴蔵」の掃除。
 冬物色々を片づける。
 夕刻、穴蔵にかんべむさし氏来室。ビールを飲みながら2時間ほど雑談。
 本日のテーマは「性格の悪さ」についてであるが、わしらほど悪いやつはおらんという結論になる。
 なぜこんな結論になったのか、よくわからん。
 夜、ボンクラ息子その1用に「最後の晩餐」。明日からひと月ほど上京するだけであるのに、専属料理人、渾身の料理。大げさなことである。
 プロ野球開幕。巨人・阪神戦、長嶋のボケ解説が凄い。

3月31日(日)
 朝、天気がいいのは午前中だけというので、自転車で淀川堤〜毛馬閘門跡〜大川沿いを1時間ほど走る。
 午前10時前、早くも花見の場所取りが始まっていて、大川沿いの特等席、ロープに「大阪府警」という札が下がっているのが凄い。
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 わしゃ、花鳥風月興味なし、ただ、旧毛馬閘門跡の煉瓦ドックが好きで、ここだけは桜の満開の時に立ち寄るのである。
 おれの散骨予定地だものなあ。
 昼前、ボンクラ息子その1、上京。やっと楽になるなどというが、専属料理人、情緒不安定にならねばいいが。
 巨人〜阪神、第2戦。なんと見事な継投策で2-1逃げ切り。星野阪神恐るべし。


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