『マッドサイエンティストの手帳』774

●マッドサイエンティスト日記(2022年2月後半)


主な事件
 ・穴蔵の日々(マンボウ発令中)
 ・神戸新聞文化センター(18日)


2月16日(水) 穴蔵
 晴。寒くもなさそうだが、出歩く気分にならず。
 終日穴蔵。
 毎日こればっかり。さすがに飽きてきた。

福田和代『繭の季節が始まる』(光文社)
 福田和代さんの書下ろし(5篇連作の)長篇。
 帯に「クライシス・ノベルの名手が描く、非接触時代のクライシス」とあるが、これは新コロナ時代の奇妙な日常を舞台とするミステリーで、もうひとつ大きな裏テーマがあると読める。
  *
 世界は何度もパンデミックを経験した結果、都市封鎖が繰り返され、人々は巣ごもり生活にも慣れてきた。
 その巣ごもり期間を《繭》と呼ぶ。
 舞台は都市近郊と思われる七曜市。語り手は交番勤務の若い警察官。
 《繭》期間の勤務形態は、24時間勤務2日休みで、3人の警察官で回す。勤務のほとんどは、自転車で町内見回りである。
 ひとり勤務では不安であり、相棒がつく。AIを搭載した猫型ロボで、警察官の性格に合わせた口をきく。
 この「ひとりと一匹」のコンビが漫才みたいにしゃべりながら、人気のない町内を巡回する。
 リモートワークがほとんどで、無人の配送車が走る程度。通行人は1日2回「犬の散歩」を許可された飼い主だけである。
 静かな町内だが、時々不思議な事件が起きる。
 飼い主のいない犬が走ったり、無人操業の製菓工場に不審な侵入者が現れたり。
 それらは「猫」のアシストで解決するのだが、やがてその猫が行方不明になる……
 ミステリーとしては(大事件ではないものの)謎解きはよく出来ているし、アフターコロナ時代の日常生活もよく考えられている。
 しかし凄みのあるのは、最後の第5話だろう。
 ここで「裏テーマ」が浮かび上がる。主人公と猫の会話の「ずっこけ」が大きな意味を持ってくる。
 これは「ポスト・シンギュラリティ」ノベルとして評価されるべきSFではないか。それを正面から謳わないところが作者の美学であり、出版社の戦略でもあるのだろう。余計なお世話かもしれないが、わたくしはそう読んだ。

2月17日(木) 穴蔵/ウロウロ
 晴。この冬いちばんの寒さというが、穴蔵にいる限りぜんぜん実感なし。
 コタツに潜ってボケーーーツと過ごす。
 午後外出。天六方向へ歩く。
 北風が強いが、晴れていて、そう寒くはない。
 某院へ。3回目のワクチン接種を受ける。
 2年ちょっと前に入院したことがあるので「かかりつけ」医である。
 ファイザー。15分待機するが、副反応なーーんもなし。
 ぶらぶら歩いて帰館。
 久しぶりに5千歩を超えた。
 夜は豪華病院食みたいなメニュー。
 休肝日となるのは致し方あるまい。

2月18日(金) 神戸新聞文化センター
 昼に出て、阪急で「越境」、三宮へ。
 神戸新聞文化センターの講座である。
 エッセイ、短篇の合評会形式。それぞれ面白い作品が揃った。
 短篇2篇はともにコロナ禍を扱って、切り口が異なる。
・医療逼迫の影響で患者がたらい回しにされる事情を、主婦・医師・旦那(患者)の3視点から描写して、それぞれに説得力がある。病院については直接取材ではなく「伝聞」というが、よく調べてある。
・ポストコロナ。リモートワークの延長でアバターによる仕事を優遇して「非接触社会」を推進する「体制」側と、ネットと(現実の)デモで抵抗する組織の攻防。裏にはAIの進化がある。これは今後のSFの主流(のひとつ)になるのではないか。
 もう1篇。「出張ホスト」をテーマにした、とんでもない問題作があって、これについては当方もだいぶ「準備」をしてきたのだが、作者が昨日受けたワクチン接種の副反応がひどく、欠席となった。来月に持ち越しである。
 本日も時間通りに解散。通勤ラッシュ前に帰阪。
 幸い、電車はとなりに誰も座らず、立っている客もいない程度の混み具合であった。
 学生をほとんど見かけなかったが、休校が多いのか。

2月19日(土) 穴蔵
 定刻午前4時に自然に目覚めた。体調すこぶるよろしい。
 2日つづけて5千歩以上歩いたからであろう。やはり運動しなければ。
 曇天。午後は雨の予報なので、午前中に歩くことにする。
 専属料理人のお伴をして天八のスーパーへ。ポーター役である。
 6缶3瓶水換算7リットル+数パック約10キロを2輪車に積載して手押しで帰館。
 午後は穴蔵。
 やっと源泉徴収票が揃ったので、確定申告の準備。
 還付金は到底作業時間に見合うものではないが……労働と考えてはいかんのか。
 たちまち夕刻。
 先日某方面から頂いたイカの一夜干し、さっそく舟歌(炙り焼きでぬる燗)を実行したのだが、本日は第2バージョン。
 菜の花を加えた春パスタ。
  *
 昼間運んだ白ワインを飲みつつ、本日はベッシェ師匠、エドモンド・ホール師匠を流す。

2月20日(日) 穴蔵/ウロウロ
 大雪情報で喧しいが、大阪(大阪市北区)は晴れて穏やかな日である。
 午前、マジメに机に向かう。
 確定申告の書類作成。20年ほど(当時は老母のも含めて)Excelで不動産関係まで諸表(マクロ)を作っているから、データ入力が終れば、あとは「清書」するだけ。
 税務署はe-Taxを喧伝しておるが、今さらややこしい手順を覚えるのは面倒である。どうせあと数回のことだし。
 清書は2時間ほどで終了。
 ひと仕事した気分になり、昼前に散歩に出る。
 ジュンクドーを覗き、人通りのない中崎町〜本庄の路地を歩き、久しぶりにJR高架沿い(A研究所の東側)を歩く。
  *
 住吉の長屋(レプリカ?)に絡む蔦の面積が拡大してきた。
 この「住吉の長屋」ならぬ豊崎の長屋を「発見」したのは1年少し前だが、それ以前から知る人ぞ知る建築だったらしい。
 A先生はその意図を明らかにされていないので、解釈は諸説あるようだが(わたくしなりの見解はあるのだが、書くのは控える。いずれこのあたりでは「豊崎長屋」と「豊崎の長屋」の二大名所になるのではないか)。
 緑に覆われるまではこのままか。見学したいが。
 午後は穴蔵。
 たちまち夕刻。一杯飲んで早寝させていただく。

2月21日(月) 穴蔵/ウロウロ
 朝、大淀税務署に出頭する。ガラガラ。確定申告の書類一式を提出。2分で終了。
 ついでに散歩……貨物線の工事現場に沿って歩きかけたが、風強く、寒い。
 中国街道を引き返してさっさと帰館。
 あとは終日穴蔵。
 一仕事終えたような気分になり、コタツで本を読んで過ごす。
 たちまち夕刻。
  *
 専属料理人の並べた数皿でビール、上燗。お楽しみはこれだけだ。
 最後に田丸屋のわさび漬け…なんとかいう限定品で一献。
 こんな日が続くのであれば、コロナもまんざら……という気分になるのが恐ろしい。

2月22日(火) 穴蔵
 晴。寒いのであった。
 出歩く気分にならず。終日穴蔵。生産的なことは何もできず。嗚呼。
 午後、YouTubeの傑作時代劇DAYで「十一人の侍」を見る。
 1967年の東映作品で、見逃していたもの。
 うーん、バカ殿暗殺の集団チャンバラ劇だが、やはり「十三人の刺客」には到底及ばず。
 シナリオ弱く、役者は格落ち、チャンバラに工夫なく、女が何かとうるさい。バカ殿のバカぶりも、十三人の方が遥かにバカ。
 共通の役者は西村晃と里見浩太郎だが、十三の役柄の方がともに抜群によかった。
 敵側の切れ者が、十三の内田良平にくらべて大友柳太朗がぜんぜん冴えない。霧の小次郎も老いぼれたなあ。
 工藤栄一もつらい仕事を引き受けたものよ。
 見なければよかった。
 たちまち夕刻。
 4皿ばかり並べてもらって一献。早寝させていただく。

2月23日(水) 穴蔵
 昨日のバカ殿暗殺とちがって、本日は天皇誕生日である。
 大阪は晴天。なによりであった。
 午後、散歩しようかと出かけたら、急速に曇り、雪がちらつく。
 結局、終日穴蔵。
 たちまち夕刻。
  *
 ビーフシチューなどでワイン。
 本音を申せば、米朝型(いちばんシンプルな)湯豆腐で上燗一杯の方がいいのだが、贅沢は言うまい。
 早寝させていただく。

2月24日(木) 穴蔵
 定刻より早く、3時に目が覚めてしまった。
 不調である。
 終日穴蔵。
 ほぼ終日ベッドで本を読んで過ごす。

2月25日(金) 穴蔵
 定刻4時に起床するものの、相変わらず調子出ず。
 終日穴蔵。
 外出は郵便ポスト往復のみ。
 ウチに隣接する市営住宅、空き家が増えてきた。今年7月には全部立ち退き(7丁目に完成予定の市営に移る)予定。すでに半分以上が空き家になっている。
  *
 その1室(この際書いておくが201号室)が空き家になっている(↑2階右端)。
 ここは野々村竜太郎の生家で、事件当時はおかしなおっさんが住んでいて、その室内を公開した。あれからもう8年になるのか。
 おっさん、1昨年まで住んでいたはずだが、新築に移る前にオダブツとなったかな。
 いずれにしても、豊崎の名所が消えていくのは寂しい限りだ。
 午後、BSで『ウィンチェスター銃'73 』を見る。
 小学時代に龍野の平和館で見て以来だから、65,6年ぶりか。
 岩山での銃撃戦はよく覚えているが、今見るとそれほどでもないな。
 ジェームズ・ステュアートはなかなかよろしいが。
 たちまち夕刻。
 専属料理人が鱈ソテー、蒸し野菜など並べた。
  *
 10種類ほどの野菜を蒸したのにイカが入っており、先日来のイカの一夜干しVer.3である。栄養満点。
 これでビール、豊崎西公園南側中本酒店の格安馬鹿旨ワイン。
 お楽しみはこれだけだ。

2月26日(土) 穴蔵/ウロウロ
 晴れて暖なり。
 このところ運動不足なので、動くことにする。
 午前、久しぶりに自転車で出る。
 城北公園通りを天八へ。長柄橋を淀川右岸に渡り、柴島浄水場前から河川敷に降り、左岸堤に上がったり降りたりしつつ十三まで走る。
 この区間(長柄橋〜十三大橋)、梅田側の堤は左岸線工事でまったく走れない。万博が終っても工事は続きそうな。ということはもう一生だめだろう。
  *
 梅田方面は春霞のようである。
 十三商店街でちょっと買い物。
 十三大橋を渡って帰館。
 あとは穴蔵にこもる。

2月27日(日) 穴蔵
 晴れで暖なり。
 調子出ず、穴蔵にて過ごす。
 外出は夜用の飲料を買いにタカセ市場往復のみ。
 豊崎東公園の南側、「味匠なにわ」の隣に新しい店が完成している(2週間ほど前には工事中であった)。
  *
 以前(5,6年ほど前まで)は「味匠なにわ」と似たような小料理屋だったが、廃業して普通の住宅だったはず。
 店名がよく読めない。バーなのか、ヒサシに牛のレプリカが飾ってあるから、ステーキハウスなのか。
 このご時勢に酔狂な……という気もするが、注目したい。(※)
 目新しいことはこれくらい。

※この店は中津をにくという「完全予約制」の高級肉料理店で、改装中であったと判明。
 改装前は「を」と染め抜いた暖簾がかかっていたので、小料理屋と勘違いしていた。
 今度は「Nakatsu Woniku」とドアにあるだけで、てっきりバーかと思った。ま、わたくしには縁のない店のようである。
 どちらかといえば、隣の味匠なにわのやけっぱち営業の方が好きである。
 (2022.3.4)

2月28日(月) 穴蔵/ウロウロ
 晴れで暖なり。
 月末の平日である。午前、歩くことにする。
 梅田の金融機関で月次の処理。人出は少なく、ほっとする。
 うめきた2期地区を抜けて西へ。工事塀が高くなり、面白味なし。
 北梅田の里山はもう春である。
  *
 雑木林には芽吹きの気配。
 北郵便局に寄り、貨物線の工事現場に沿って帰館。
 午後は穴蔵にこもる。


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