『マッドサイエンティストの手帳』736

●マッドサイエンティスト日記(2020年8月後半)


主な事件
 ・穴蔵の日々(外出自粛)
 ・神戸新聞文化センター(21日)
 ・シンギュラリティサロン(22日)


8月16日(日) 穴蔵
 世間は盆休みの最終日である。近所は静かなもの。
 終日穴蔵にて過ごす。
・YouTubeで『黒線地帯』(石井輝男)を見る。天知茂が麻薬と売春の組織を暴く活劇ものだが、新東宝映画はもういい。
 『地獄』もアップされているが、これはDVD持ってる。楽しみは『女軍医と贋狂人』だけ。これは10月にDVD発売らしいが、買うほどではない。ヘレン・ヒギンズを記憶の中で美化し過ぎている可能性が高いからな。
・昼は、昨日買ってきた食材で、こういうミニ丼を試みる。
  *
 40年前には天五屋に300円の鰻丼があった。
 小松さんが「いっぺん食べてみたい」といってたが、案内できぬままになった。
 それよりも安いのである。
 まあいけるのではないか。高くなってうな次郎にも長いこと行ってないしなあ。
・午後、NHK「日本の話芸」で笑福亭生喬『お目見得』を見る。
 花登筺が松鶴のために書いた丁稚もの。松喬が引き継いで一度だけやり、それを生喬が演る。
 まあこんなものか。

8月17日(月) 穴蔵/ウロウロ
 午前、暑さの報道喧しき中、ぶらぶら歩いて西梅田の某院へ。
 また2週間、おとなしくしていることになる。
 昼前、近くまで来たのだから、うめきた定点撮影ポイントから「1500体の骨発掘現場」を眺める。
  *  *
 暑い中、西南の隅の方で学芸員?諸君がまだゴソゴソやってはるような。
 北東部の肝心の区画は埋められているように見えるが……ちがうか?
 どうも今回の報道、区画の表示があいまいで、発表時期(発掘調査が終了してからの発表)といい、詳しい報道に規制がかかっているように思えてならない。
 跡地の建つ建物の価格に影響するからか?
 一般市民は塀の中に入れないからなあ。
 こちらは古地図と照合できる詳しい区画情報が知りたいのである。
 マニア諸氏に期待する。わしも頑張るが、今はあまり遠距離は歩けないのである。

8月18日(火) 穴蔵
 残暑甚し。
 本日は近所の某医院で定期検診。ひと月前にはややこしかったが、本日は(こちらでの数字は)ごく正常であった。
 しかし、ともかく用心して生活せねばならぬ。
 公園のニャロメの木が朱夏を迎えている。
  *
 元気でなりより。
 わしゃ穴蔵でボケーーーッと過ごす。
 明日からは穴蔵生活を少しは改善する……つもり。

8月19日(水) 穴蔵
 残暑甚し……とはいえ、昨日より1℃低く、過ごしやすい。
 寝違えたのか、体を動かすと背中の一部に痛みが走り、だんだんひどくなる。
 終日、寝転がって本を読んで過ごす。
 小便と食事のために起きあがるのが面倒な。
 明日はましになるか。

8月20日(木) 穴蔵
 残暑甚し……とはいえ気温は昨日と同じで、過ごしやすい日である。
 体(背中)の具合、少しはマシなようだが、動く気になれない。
 終日穴蔵。
 寝そべって本を読むか、エルゴヒューマンに凭れてPC。
 午後、NHK「上方落語の会」で桂歌之助『竹の水仙』を見る。干天の慈雨である。
 たちまち夕刻。
 粗食に近い健康食で一杯。
 夜、BS「鉄道・絶景の旅」で、出雲街道(姫路〜出雲)の姫新線・伯備線などの沿線風景を見る。
 多くは実際に見た場所で、丹念に撮ってあると思う。

8月21日(金) 神戸新聞文化センター
 久しぶりに出かける。阪急で三宮へ。
 先月とつぜんややこしい事情で休講した神戸新聞文化センターの講座である。
 提出作品の合評形式。
 エッセイに新コロナ関連のが複数あり、休講でひと月ブランクが生じたため(つまり執筆時から2月以上経過している)、返って議論が面白くなったり。
 特に新コロナをどう書くか、どの時点で「小説」にできるのか。大地震とは「時間感覚」がまるで異なるのである。
 色々な見解がでる。これを怪我の功名などといってはいかんかな。
 他に、エッセイ、短編に面白い作品あり、ただしSFに関しては、ちょっと厳しくなった。
 このところ、SFの「この10年の傾向」を考えているからでもあろう。
 これらは受講者内の議論であり、詳しくは書けない。
 久しぶりの小説談義、もう少し続けたい気分だったが、時間制限もあり、来月に送る。
 往復の(県境越境)電車は空いていて(一人置きの着席/立っている客なし)、おそらく感染はしていないであろう。

8月22日(土) シンギュラリティサロン
 眠り断続的であるが、午前4時に起きる。
 室温30℃、ベランダ29℃。世間(テレビ)は熱中症とうるさいが、過ごしやすい日である。
 終日穴蔵。痴呆状態で過ごす。
 午後、シンギュラリティサロン。2月1日以来、半年ぶりの開催である。
 今回はオンライン開催(YouTube配信)。
 テーマは「新型コロナウィルスとシンギュラリティ」
 講師は半年前と同じく、松田卓也、塚本昌彦、小林秀章(セーラー服おじさん)の3氏。
 最初に松田卓也先生の講演。
 この半年のコロナ騒動(興味深い分析色々)と生活スタイルの変化を語られ、シンギュラリティを広義に「大変動」ととらえると、新コロナはその先駆けではないか、特にリモート・コミュニケーションが(以前からの持論である)脳〜コンピュータ・インターフェースの進歩を加速するという見解(他にも色々あり)である。
  *
 引き続き、3氏(司会は保田充彦氏)のパネルは、会場(ネット)からの質問に答えるかたちで、新コロナ後の展望をそれぞれの立場から発言されたが……要約は面倒なので省略。個人的には、サイボーグ化してまで出歩く元気はなく、脳に穴を開ける度胸はなく、AIを補助道具として使うくらいで今後の推移を見物したい。
 190人くらいが参加。
 今後のオンライン・イベントを考える上でも面白い企画だった。

8月23日(日) 穴蔵
 相変わらずの酷暑報道。わしゃ過ごしやすいんだけどなあ。
 穴蔵にて本を読んで過ごす。
 運動不足なので、いちばん暑いらしい14時頃に散歩に出る。
 茶屋町のMARUZEN & ジュンク堂書店 梅田店に寄る。
 10日ほど前から気になっていること。
 文庫の新刊コーナーに『日本沈没』が並んでいる。
  *
 この帯で『日本沈没』が今年、湯浅政明監督によってアニメ化されることを知った。これは楽しみである。
 で、文庫の新刊コーナーに並んだわけだが……
 左から角川版の文庫上下が2冊ずつ。
 右の2冊が???
 小学館文庫の『日本沈没第二部』(上)と『日本沈没』(下)が並んでいるのである。
 10日ほどこのまま。
 角川文庫2冊、小学館文庫2冊、小学館文庫(第二部)2冊と並ぶべきではないか。
 誰か言ってやってくれんかねえ。
 売場面積日本一の書店にSF好き店員はいないのか。

8月24日(月) 穴蔵
 世間は酷暑、わしゃ快適。
 終日穴蔵にてボケ状態を楽しむ。
 午後、BSで『アビス』(完全版)を見る(まだ見ていなかったのである)。
 170分。冗長であるなあ。採掘基地の隊員と軍の対立とかヒロイン?に魅力を感じないなど、ダラダラ要因は色々あるが、製作時期がソ連崩壊の前後だったことが最大の敗因のような気がする。
 1989年10月…アメリカ出張でアパラチア山脈の麓を走っていた時、チェロキー原子力発電所の廃墟の横を通過した。
 これが「アビス」の撮影現場であることを、その3時間ほど後に訪ねたオースン・スコット・カード氏から教えられた。
 あれから30年になるのか……。

8月25日(火) 穴蔵
 世間は酷暑、わしゃ快適。
 終日穴蔵にてボケ状態を楽しむ。
 ハードSF研公報VOL.195が届く。
 ここ数号、島本光昭氏の「不完全性定理」に関する論考が(余談を含めて/むしろ余談の方が)興味深い。
 たとえば……不完全性定理に対する西欧哲学の影響を考える途中で「デカンショ節」考に「脱線」するが、これが面白い(わが「余談」をひとつ付け加えれば、デカンショで半年暮らし、後の半年は寝て暮らすとは何という怠け者だという批判があり、それに対して、半年寝て暮らすは言葉のアヤで、起きている時間はすべてデカルト・カント・ショーペンハウエルを学ぶという旧制高校生の心意気を歌っているのだ……という反論もある)。
 次回は「藤村操事件」を枕にカント哲学と不完全性定理という展開になるらしい。
 それにしても、オロモルフ博士の勤勉な姿勢にはつくづく頭が下がる。
 200号まであと5号、明日からこちらも気合いを入れねば。

8月26日(水) 穴蔵/ウロウロ
 相変わらずの酷暑である。
 午前、越境して兵庫県まで行くことにする。
 9月半ばまで播州龍野行きの予定がないので、8月中に兵庫県へは行かねばの娘。
 阪神尼崎か阪急塚口か二者択一……どうも阪神尼崎は危険な感じがする。濃厚接触を伴う接客店が多いからなあ。
 ということで、阪急の普通で塚口へ。駅から徒歩10分ほど。用事は5分で終わる。
 帰路、十三で途中下車。
 十三商店街の丹波で「きさらぎ漬」を購入。
 駅に戻る途中、西口の近くで、小便小僧「見返りトミー君」というのを見かけた。十三新名物?
  *
 なぜトミー君かというと、13→トミーの語呂合わせ、ションベン横丁にちなんで小便小僧。
 今年のバレンタインデーに除幕式だったというから、この前に来た翌日ではないか(※)。
 銅の銘板や煉瓦がいかにも火事で焼けただれたように作ってあるのが小賢しいなかなかいい。
 帰館。
 午後は穴蔵にこもる。
 16時頃、東の空に久しぶりに夏らしい雲。
  *
 大阪の東部に大雨警報、生駒に洪水警報まで出るが、こちらは降らんなあ。晴れたまま。先日の市内ゲリラ豪雨の時も降らなかった。
 ということで、外気は涼しくならぬまま夜。
 きさらぎ漬その他で一杯飲んで早寝するのである。

「見返りトミー君」は10年以上前からありまっせというご指摘をいただいた。慌てて調べると、平成20年2月14日が除幕式だった(平成20を2020と間違えた)。
 ションベン横丁の火災前からあったわけで……何度も通っているはずが、気づかなかったなあ。ションベン横丁の入口とは反対側に設置してあるから、目がいかなかったのか。
 ともかく(新宿はなくなったが)ションベン横丁の名が残るのはいいことである。

8月27日(木) 穴蔵
 本日も酷暑らしい。
 穴蔵にてボケ老人状態で過ごす。
 昼前から暗雲たちこめ、14時頃からゲリラ豪雨。市内に大雨警報が出る。なるほど昨日の生駒方面、こんな感じであったのか。
 午後、BSで『追想』を見る。
 前に見たのが中学時代だから、60数年ぶりか。前見た時は「詐欺師の映画」としては工夫が足りないな(知恵より情に頼りすぎ)という印象だったが、今見ると予定調和が過ぎるというか。バーグマンにも魅力感じず。20代で見るべき映画であった。
 引き続きNHK『上方落語の会』で月亭可朝師匠の2席「住吉駕籠」と「算段の平兵衛」を見る。
 可朝師匠の「落語」を見るのは初めて。カンカン帽で出てきて、帽子を取って演じ、また帽子をかぶって下りるスタイル。
 意外にきちんと語り、「算段の平兵衛」は按摩にゆすられるところまであり、サゲはちょっと変えてあるのかな。
 ま、珍品だな。
 たちまち夕刻。
 一杯飲んで早寝するのである。
 明日は「辞任表明」か。

8月28日(金) 穴蔵
 久しぶりに朝は曇天。過ごしやすい朝である。
 外出自粛。穴蔵にて半ボケ状態で過ごす。
 午後に「安倍辞任の意向」のニュース。昨日の予感は当たりである。
 予想の根拠は週刊文春の「潰瘍性大腸炎再発」報道と昨日午前の「虚ろな視線」である。
 こりゃあかんわと即断しましたね。オムツしての政治は無理(じつはそれを実感させる作品を先日読んでたからで……ちょっと長くなるから明日書くことにする)。
 夕刻、安倍の会見(辞任表明)を30分ほど見るが退屈。
 東の空に積乱雲、奈良に大雨と洪水警報が出ている。ゲリラ豪雨らしい。
 こちらは東曇西晴の夕焼け。
  *
 暮れゆくうめきたを眺めつつ、枝豆、肉じゃが、イカ刺など並べて貰ってビール。
 テレビは切り、BGMはトミフラ師匠。
 明日は政争中継を楽しむことにする。

8月29日(土) 穴蔵
 残暑甚し。
 本日も終日穴蔵。
 思うところあって部屋を片づけようと思うが、面倒になり、結局ボケ老人状態で過ごす。
 ニューサンが50周年で(人数制限しつつ)記念イベント中である。
 ラスカルズの出演日で、最終ステージだけでも行ってみようかと迷うが、諸般の事情から、やはり9月半ばまでは外出自粛した方がいいようである。
 しばらく、読んだ本のことを書いてないので、少しずつ再開することにしよう。

酉島伝法『オクトローグ』(早川書房)
 酉島伝法さん3冊目。『皆勤の徒』(連作)『宿借りの星』(長篇)に続く初の短編集である。
 7年間の精華。デビュー以来さまざまな媒体に発表された短編に書き下ろしを加えた8編、凄まじい世界が展開される。
  *
 巻末の大森望さんの解説が素晴らしく、ネタバレしない線をきちんと守って見事にその読みどころを押さえている。特に大事な指摘は、おそろしく手間をかけ「十倍の時間をかけて書いても」原稿料は変わらず十倍売れる保証もなく十倍の価格にはできず補助金もでない…など、苦労の多い作風ということである。こちらは十倍の時間をかけて楽しみ、その読後感は十倍ほど続くのだが、願わくば十年後も売れ続け評価され続けてほしい。そんな作品集である。
 大森解説と並んで、SFマガジン10月号の大野万紀さんの書評もいい。
 このふたつを読むと、もう付け加えることはなくなってしまった。
 以下は雑感である。
 酉島作品の最大の特長は特異な造語感覚で、それが単に語呂合わせではなく、舞台となる異形の世界の「日常語」になっているから、読者は否応なく作中人物?を体験させられることになる。『皆勤の徒』『宿借りの星』はまさに異形の世界が舞台だが、『オクトローグ』ではその舞台がさまざまに拡大している。
 『環刑個』は刑罰としてミミズ(みたいなもの)を体験させられるし、『ブロッコリ神殿』では植物を体験させられるといった具合。
 個人的には書き下ろし『クリプトプラズム』で描かれる、デジタル人類とオーロラ状の巨大な生命?とのファースト・コンタクトが、見事に本格SFで、いちばんの好みである。
 これと対称的に特異な作品が『金星の蟲』である。これは(たぶん)作者の実体験が書かれているのである。
 「皆勤の徒」について、わが感想として「ブラック企業を描いたようにも解釈できる」といったのだが、作者は否定しなかった。その体験をほぼストレートに書いたのが『金星の蟲』なのである。
 これが凄まじい。特に凄いのがトイレ描写。主人公は作業中に時々便意をもよおしてトイレに駆け込み血便を出す。これがだんだんひどくなり、最後は間に合わず「突如エアバッグが作動したように、弾力ある塊がズボンの生地と太股の間に押し出され」「冷たい粘液がふくらはぎを伝い」「掌でズボンの膨らみを押さえる」「腐った果実の感触がした」「足を引きずってトイレに向かう」「膝のあたりまでずり落ちてきた」……ここには酉島造語はひとつもない。それでいて凄まじい描写。ぜひとも原文でご確認を。
 この場面で思い出したのが筒井康隆「コレラ」である。原本が手元にないので引用できないが、冒頭でミニスカートの美女が半球形状にまき散らす場面が凄まじくも美しかった。
 あれから半世紀ぶりの衝撃である。
 「コレラ」は美人で「開放」型で美しいのに対して、「金星の蟲」はむさ苦しい男で「密閉」型でリアリティがある。
 酉島氏が普通の(でもないか)世界を描いても恐るべき筆力の持ち主であることが確認できるのである。
 (以下は感想から離れる)
 一昨日、総理の「辞任表明」を予感したのは「金星の蟲」を読んでいたからであり、「潰瘍型大腸炎」患者に総理の役職が無理なことが実感としてわかったからである。

8月30日(日) 穴蔵
 残暑甚し。穴蔵にいる限り快適である。
 少しは仕事もするのであった、いと少なしを。
 午後、クリックポスト投函にポストまで。
 と、38℃の炎天下をダウンに帽子、マスクなしで歩く「哲人」とすれ違う。
 わしゃ寒がりでは人後に落ちぬつもりだが、この時期にダウンはダメである。
  *
 バックパックにトートーバッグなど4個、傘2本を持ち、ヘッドホンで音楽聞きつつ悠々と歩いて行かはる。
 ヒゲ面で眼光鋭く、深く思考中のような。ルンには見えない(衣類がきれいすぎる)が……しかし、所帯道具全部を携行ではないか?
 どうやら新御堂下、淀川堤方面を目指してはるような。
 珍しいタイプである。
 明日、淀川堤方面を探検することにしよう。

8月31日(月) 穴蔵
 残暑甚し。穴蔵におれば快適なので、終日穴蔵……のつもりだったが、昨日の「哲人」が気になって、午後、30分ほど散歩。
 新御堂高架下を淀川堤まで。
 それらしき場所を巡るがいてはらん。
 あのダウン着て汗をかかはらん姿を見るだけで、涼しい気分になると思ったのだが。
 いずこへ((C)チャーリー浜)。
  *
 淀川堤。水管橋撤去工事の終了から2ヶ月だが、夏草が生い茂り、煉瓦の橋脚には早くも遺跡の風格が漂っている。
 汗だくで帰館。いい汗をかいた。シャワー。
 夜は専属料理人に数皿並べてもらってビール。
 早寝させていただく。
 無為に過ごした8月が終わる。嗚呼。


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