HORI AKIRA JALINET

『マッドサイエンティストの手帳』169

●マッドサイエンティスト日記(2000年10月前半)


主な事件
 ・「野尻抱介氏の星雲賞受賞祝賀会」(6日)
 ・梶尾慎治『黄泉がえり』は傑作である。(14日)
 ・長野県民に詫びる。(15日)
 ・「徳間康快氏のお別れの会」(16日)

2000年

10月1日(日)
 終日書斎。夜、やっとオリンピックが終わるらしい。幸いボンクラ息子不在につき、テレビを見なくて済む。昨日奈良で購入の滝川雅弘のCDを聴きながらフペアリブでワイン。

10月2日(月)
 終日ボンサラ仕事。
 夕方から、さる土曜日に閉鎖した某「分室」のスタッフ2名の送別会。ひとりは中国籍で近日アメリ移住という。ネポティズムの世界の住人であり、うらやましくもあり、まったくうらやましくもなし。
 SFファンだ、というだけで、世界のどこででも仕事にありつければ楽しいであろうが。

10月3日(火)
 終日ボンサラ仕事。

10月4日(水)
 低層階の狭い仕事部屋で寝てたら午前2時過ぎ、テレビの音がうるさくて目が覚めてしまう。外に出て見ると斜め上の部屋の騒音らしい。つまり、その部屋だけ窓を開けて明かりがついている。上下左右、よく我慢できるものである。
 そのまま天五へ自転車で。久しぶりに「早朝うなぎ」……午前2時半は早朝ではないか。
 3時帰宅。3時間仮眠。
 午前7時に出社して終日ボンサラ仕事。

10月5日(木)
 終日ボンサラ仕事。

10月6日(金)
 早朝から上京の予定が、トラブル発生で午前中大阪市内となる。昼のひかりに飛び乗って上京……のつもりであったが、13時30頃、長良川鉄橋の上で停電、ひかりが止まってしまう。地震である。明らかに左右に揺れている。社内放送で、鳥取でM7.2の地震という。ええっ、大地震ではないか。30分で動き出すが、岡山以西は止まったままらしい。
 東京着は50分ほどの遅れ。
 しかし、まあ都内での打ち合わせはなんとか出来た。1件は電話で事情説明、明朝にしてもらう。
 午後7時、新宿へ。「野尻抱介の星雲賞受賞祝賀会」。星雲賞で祝賀会というのも異例だが、意外に野尻人脈というのは広いのだなあ。柴野ご夫妻はじめ、谷甲州氏、森岡浩之氏、大森望ら氏、宇宙作家クラブの面々……。最後の方で仙道エリ様から花束贈呈があった。
 off off

 最後に挨拶させられるが、酔っぱらっていて、抑圧なし。したがって言わずもがなのことをだらだらしゃべってしまう。わしのいかんのは、これを全部覚えていることで、絶対に記憶にないとは忘れたとか、言い訳はしない。したがって翌朝ひどい自己嫌悪に陥り、反省しきりである。主旨は「宇宙SFの書き手が増えてきたから、毎年星雲賞を目指してがんばろう」というもの。それだけであります。ただし余分な発言も多かった。……オフレコですと断ったのはぼくの「一身上の都合」に関することだけで、あとは別に隠すことでもない。「この20年のSFをつまらなくした原因のひとつは今岡清という大馬鹿野郎である。今では朝起きて子供のお弁当を作り、かあちゃんのでかいパンツを洗濯する男中生活、たまにおひまとお小遣いを貰うと女装してお出かけする変態性欲者に成り下がった。しかし、こいつ、トイレは男用女用どちらを利用しているのだろう。そのうち女子トイレでパクられるんじゃないか」……ん? ここまでは言わなかったかな。まあ言い忘れていたのかもしれない。が、考えてみると野尻さんにも参会者の方々にも何の関係もない話である。深くお詫び申し上げます。あ、参会者へのお詫びであって、言及した対象物件に対してではありませんよ、念のため。
 明日も仕事なので、二次会は遠慮。中央線で阿佐ヶ谷。駅前の鳥正にご挨拶に寄り焼酎を2杯。おなじみの首懸けの経を歩いて、おなじみの首吊りホテル泊である。

10月7日(土)
 朝、休日なれど昨日の地震で日程調整してもらった某社某氏と打ち合わせ、昼前のひかりに乗る。連休初日、自由席は大混雑と覚悟してていたら、切符売り場は混乱しているが、正常運転、30分ほど並んで、夕方前に帰阪できた。
 夜、テレビで『踊る大走査線』を観る。よく出来ている(警察官僚機構の描写など)方と思うが、演出が冗長、思わせぶりな表情を長く写しすぎ。特に犯人逮捕の後が長すぎる。1時間半くらいでテンポをあげないと。テレビの2時間ドラマの冗長さの影響か。

10月8日(日)
 終日書斎。
 夜、テレビで「ロック」を観る。コネリーがいいが、「踊る大走査線」同様、機構の上層部だけが無傷で生き残る、下はいわば「同士討ち」であって、カタルシスのない映画である。最近の流行なのかしらん。

10月9日(月)
 連休3日目。終日書斎。
 体育の日である。日本のこういう3連休にくっつける祭日は、やっぱり「移動祝祭日」というのだろうか。復活祭は宗教上の祭日だが、日本のは消費喚起のための移動だからなあ。……ちなみにヘミングウェイの小説のタイトルは、青春時代のパリの思いでは、生涯持って歩けるお祭りになるという意味で、「携帯祭日」といったニュアンスのはず。日本もお手軽な「モバイル休日」と呼べばいいのではないか。
 FMで「オールディズ・ジャズリクエスト」11〜夜23時。断続的に聴きながら、まあまあ仕事。
 夜、谷口英治さんの新CDのプロディューサー・増淵正義氏からFAXと電話。えええっという話。
 ジャズの日であるなあ。

10月10日(火)
 連休明けはトラブル集中のはずが、穏やかな日である。ボケーっと仕事。

10月11日(水)
 事情があって堺の鋳物工場へ。稼働中のキューポラを初めて見た。まあなんとも3Kな仕事である。中国人が多いというが、国内でいつまでやれるものか……。

10月12日(木)
 輸出予定の大型タイムマシンが輸出貿易管理令にひっかかることが判明、通産局を自転車で往復。上町台地のサイクリングは久しぶりである。タイムマシンの5次元制御ソフトが外為令該当という。要するに、貿易令はハードの輸出規制、外為令はソフトの輸出規制ということらしい。「役務取引許可」というのは初めてである。結局2往復。いい運動になるぜ。

10月13日(金)
 タイムマシンのバイヤーが船積み前に実物検査のため、勧告から飛んでくるという。昼前から関空へ出迎え。東奔西走、あわただしいことである。
 ハルキ文庫『地球環』の見本届く。ありがたいことである。
 夜のテレビニュース、定刻すこし遅れて見たら金大中の経歴を放映している。暗殺か病死か事故か、いずれにしても死亡のニュースだろうと見ていたら、なんとノーベル平和賞受賞という。まあ意外ではない。佐藤栄作の場合はてっきり冗談だと思ったが。今では忘れている人の方が多いだろうな。……しかし北がどう反応するか。わからんなあ。

10月14日(土)
 終日原稿……のつもりが、昼前にカジシンの『黄泉がえり』(新潮社)が届く。
 読んでしまった。罪なことしてくれるせ、ったく。
 『OKAGE』と並ぶ熊本SFの傑作。よく書き込んであるなあ。最後の地震の扱いが、やりようによってはもっと本格SFにできるんだろうけど、全体のバランスを考えて抑制している気配がかえっていい。このへんが小説家の腕。わしには真似のできないところでもあるのよなあ。

10月15日(日)
 朝刊に板東英二の元付き人(桂春彦という春団治の弟子?だった男、33歳、豊崎7丁目)を7億円恐喝で逮捕の記事。なんだこりゃ。どちらも同じ町内会ではないか。……しかし、7億円というのは現実味がないなあ。何があったのだろう。
 終日書斎……のはずが、明日が休みで上京とするため、連絡事項などあり、午後2時間ほど出社。
 夕方からまた書斎。
 夜、テレビで田中康夫が長野県知事選に当選確実のテロップが流れたと、専属料理人から連絡。ほんまかいな。どうやら本当らしい。この2、3年のなかで、わが「大予言」大外れの代表格である。(もうひとつ大外れは携帯メールの普及。電話族は絶対にキーボード派とは相容れない。しゃべりはしゃべりながらでしか思考できないからと「予言」した。これが大外れであったのだ)
 むろん、わしゃ、過ちを認めたら直ちに詫びる。
 長野県民の皆さん、申し訳ありませんでした。大半は愚民で、長いものに巻かれる連中で、どうしようもない田舎者と信じておりました。昔の「リンゴ畑のお月さんこんばんは」です。可愛い娘はみんな東京へ行っちっちで、ふがいない男ばかりがリンゴ畑で未練がましいことばかりいっとる、そんなイメージで見ておりました。また、そんな雰囲気を感じたこともございました。もうわしの年代とは代替わりしているのでありました。申し訳ございません。認識をあらためます。明日は更科そばを食べることにいたします。

10月16日(月)
 9時前のひかりで上京。正午前に東京着。八重洲地下街のそば屋で更科そばを食べる。
 高輪プリンスホテルへ。途中、井上雅彦氏といっしょになる。
 『徳間康快氏のお別れの会』
 飛天の間というのは、都内随一の広さの会場らしい。到着順に席に着く方式。で、大型表示装置の中継を見ていると、なんとも凄い顔ぶれである。
 追悼の辞が宮崎駿。弔辞が氏家齊一郎、岡田茂、服部敏幸。
 「献唱」ということで五木ひろしが「山河」というのを歌う。はじめて生を聴いた。
 献花で、前の方に並んでいるのが、中曽根大勲位、ナベツネ、石原慎太郎、森繁、三田佳子、住友銀行頭取、電通、サントリーなど企業社長、遠藤実……あ、小松左京氏も。まだまだ色々見たような気がするなあ。
 献花が終わるとゾロゾロ退場だが、SF関係、ちらっと見た方を含めても高齊正さん、山田正紀さん、新井素子くらい。結局誰がどこにいるのかわからないままであった。


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