『マッドサイエンティストの手帳』655

●マッドサイエンティスト日記(2017年5月後半)


主な事件
 ・ロボ展@阪大総合学術博物館(19日)
 ・門真運転免許試験場(22日)
 ・播州龍野いたりきたり
 ・歌之助やけくそ二十日間
 ・シンギュラリティサロン@グラフロ(27日)
 ・円城塔氏@エルおおさか(27日)
 ・独居老人生活


5月16日(火) 穴蔵/ウロウロ
 晴れて暖。終日穴蔵……のつもりだったが、昼過ぎに雑事発生、タイムマシンの某国案件でお上の刊行物をチェックする必要があり、肥後橋の官報ビルへ行く。南へ歩き、大阪科学技術センター内の某事務所にも寄る。
 せっかくだから靫公園を30分ほど散策。
  *
 中之島バラ園より、こちらの方が雰囲気はいいような。
 帰館。
 晩酌時に日下武史氏の訃報。
 最高の名演は「解ってたまるか!」であろう。SFファンであり、フレッド・ホイルを高く評価されているのを知って(1970年頃)以来、おれはずっとこの名優のファンである。世界SF全集の月報に名文を寄せられている。
 「解ってたまるか!」の映像は残っていないのかなあ。

5月17日(水) 穴蔵/ウロウロ
 調べたいことが生じて、9時半に出て、西長堀の中央図書館へ行く。
 2時間ほどあれやこれや。雑誌の旧号に欠番(貸出中)があるのがちょっと困るね。雑誌くらい自分で買えといいたくなる。
 雑誌のバックナンバー調査は府立図書館の方がいいのだが、荒本は遠いからなあ。
 北側にある細野ビルヂングを眺める。
  *
 いつもながらいい雰囲気である。昭和11年竣工で、ここから南東300メートルあたりで筒井康隆氏が生まれた時にはまだ建っていなかったのである。
 長堀通を西へ。木津川沿いに大正まで歩き、いちゃりばにて沖縄そば定食。
 湾岸エリアを歩いてみたいが、本日は荷物がちと重く、まっすぐ帰館。

5月18日(木) 穴蔵
 快晴である。出かけたい気分になる。
 じつは今週後半あたり(つまり今日前後)、四国の太平洋側へ行こうと月初から計画していたのである。
 播州龍野からクルマで、瀬戸大橋を渡り、讃岐うどんを食し、山脈を越えて某市へ行き、夜は大吉で鰹のタタキで一杯飲り、木馬でジャズを聴く。翌日は海岸沿いを東へ走り、漁港の魚の旨そうな店で昼食……のつもりでいたのだが、先日テレビで見たアニサキスの映像がいかん。アップで見ると、おれのもっとも苦手とするS字型にそっくりではないか。予防法は「よく咀嚼しろ(つまり「噛み殺せ」の意)」だと。できるわけなかろ。
 ここ数日、生魚を食べる気がしなくなってしまった。煮魚もなんとなくなあ。
 ということで、今年の四国行きはやめる。
 終日穴蔵。
 週刊新潮を買ってきて読む。トップ記事『「文春砲」汚れた銃弾』は執念のスクープ?である。文春砲なら「砲弾」だろうなどとケチをつけてはいけない。コンビニのコピー機で新潮の「中吊り」をコピーする文春社員、見事なスクープ写真である。中吊りを貸し出した「取次会社」の名が書かれてないが、これは業界内の配慮か。
 その文春は最近低調。目当のコラムが「しばらく休載」、筆者の体調であろう。文春はしばらく手にとることもなさそうである。
 たちまち夕刻。
 専属料理人に、枝豆、若竹煮、トマトサラダ、蕪の菜っぱを明太子で炒めたんなど並べてもらってビール。
  *
 見てくれは悪いが手羽と大豆の煮たので黒糖焼酎れんとの水割り。うま。
 生魚とは、しばしの別れである。
 早寝。

5月19日(金) ロボ展@阪大総合学術博物館
 本日も快晴なり。
 昼、阪急石橋へ。
 大阪大学総合学術博物館で企画展「HANDAI ロボットの世界」が開催中である(8月5日まで)。
 石黒浩教授の作ったダヴィンチアンドロイドはじめ、浅田共創知能システムプロジェクトが中心に開発してきたロボット約20体が展示されている。
  *
 ロボカップのスタート時から、歴史を感じるまでになったなあ。
 歴史を感じるが……ロボットはやはり「今」の研究室を見学に行くのがいちばん面白い。
 この博物館にははじめて来るが、常設の電算機、光学機器などの他に、待兼山一帯の古生物や地層から現在の自然までの展示が充実しているのに驚く。
 もともとここは古墳群が多いところで、研究はこの分野がメインらしい。
 ※本日、帰宅後に知ったが、岩見銀山で江戸期の銀鉱石標本発見のニュース。現在、この博物館で研究が進んでいるのであった。
 ついでに徒歩3分のところ、学生時代の下宿に行ってみる。
  *
 跡形もなし。瀟洒な事務所になっている。半世紀前だからなあ。

5月20日(土) 穴蔵
 本日も快晴なり。東向きの穴蔵、午前7時には室温28℃となり、終日この温度で推移。快適そのものである。
 外出することなく、終日資料を読んで過ごす。
 たちまち夕刻となる。
 夜は専属料理人に、枝豆、豚ソテー、サラダなど(さらば生魚)並べてもらってビール。
  *
 新じゃがのグラタン(↑これで大き目のじゃが1個だという)で豊崎西公園南側中本酒店推奨格安馬鹿旨白ワインを飲む。うまっ。
 早寝するのである。

5月21日(日) いつかイライラする日々
 本日も快晴なり。東向きの穴蔵、午前6時過ぎに室温29℃となり、終日この温度で推移。快適そのものである。
 外出することなく、終日資料を読んで過ごす。
 夕刻から居住する集合住宅の定期総会。
 高齢者が増えた。
 大きな議案はなく、1時間くらいで終わると思ってたら、議案と関係ない「大演説」を始めたお方が約1名。
 一言でいえば「南海トラフ地震で予想される津波について当集合住宅でも避難対策を検討しておくべき」ということだが、ご自身の生まれ育ち、戦時体験から始まって阪神大震災での目撃例、最近新聞で読んだ記事まで、延々30分以上。これに対して参考意見を述べる人がいて、20秒でいえる意見を、くどくどと5、6分。さらに数回の応酬があってうんざりしてくる。意見を簡潔にまとめられない人が増えているのである。肝心の議案は40分ほどで片づいたが、終了まで2時間以上。
 自宅に戻ると留守電が入っていて、専属料理人にも数度、まだ戻ってないのかとの問い合わせがあったらしい。
 こちらも某ご老人のどうでもいい「ご相談」。内容は書かないが、色々と愚痴を聞いて、「まあ、それでいいじゃないですか」と伝えるしかない。30分ほどこの繰り返し。こちらは電話の切り方がわからなくなている(いるでしょ、最後の挨拶を何度も何度も繰り返すタイプ)。ああしんど。
 午後10時頃からやっと晩酌。
 近日、穴蔵の固定電話は廃止することにしよう。

5月22日(月) 運転免許試験場
 運転免許更新の期間になったので、今回、門真運転免許試験場へ行ってみることにする。
 免許更新は今回で最後とする可能性が高く、どんな場所なのか一度見てみたくなったため。地下鉄なら片道50円で行けるのである。
 8時前に出て、心斎橋から長堀鶴見緑地線・門真南へ。ここから徒歩20分ほどで、9時頃に着く。
 うへっ、えげつない行列である。推定300人ほど。
 40分ほど並んでやっと受付。
 しかし、あとは流れ作業で、印紙購入・申請書記入・視力検査・暗証番号入力と進み、10分ほど待って写真撮影、5分ほどしたら新しい免許証を渡してくれた。高齢者講習をすでに受けているので、講習の受講は必要なく、10時過ぎに終了。待ち時間を除けば実作業は10分ほどではないか。
 それにしても、ここに来るの、どういう人種なのか。写真撮影(身分証明書としても使うことがあるわけよ)するというのに、老若男女問わず名状しがたい色彩や柄のカジュアル衣料ばっかり。スーツにネクタイ、制服はゼロ。ノーネクタイだがジャケット着てるのはおれひとり。普通の会社員は近所の警察へ行き、ヒマなのしか来ないということか。
 また門真南まであるく。
 古川に張り出したクスノキの巨樹を見る。
  *
 府指定天然記念物「ひえ島のくす」というらしい。
 しかし、播州龍野・揖保川の堀家住宅横の楠には及ばないな。

5月23日(火) 大阪←→播州龍野
 早朝の電車で播州龍野へ移動する。
 先日発生した「別荘」のトラブルについて修繕工事が終わったので現場の確認。
 その他タイムマシン関係の雑事あれやこれや。
 合間にちょっと散歩。
 揖保川沿い、堀家住宅横のクスを眺める。
  *
 門真市のクスにケチをつけるわけではないが、大きさ、かたち、背景の白壁、川の広さなど、どう見てもこちらの方が風格がある。天然記念物に指定すべきではないか、兵庫県さんよ……などと愚考しつつ、夕刻の電車で帰阪。
 夜は魚(アニサキス)抜き、ローストビーフ中心に野菜どっさりメニューでビール、黒糖焼酎水割り。
 早寝するのである。

5月24日(水) やけくそ二十日間・16日目
 久しぶりに曇天、午後には小雨となる。
 落ち着いた気分で、終日穴蔵。
 夕刻這い出て、地下鉄で南森町へ。
 ツギハギ荘にて「歌之助やけくそ二十日間」を聴く。ほぼ満員、なによりである。
 笑福亭喬介「饅頭怖い」
 桂歌之助「うなぎ屋」
 桂まん我「平林」
 桂歌之助「へっつい幽霊」
 本日の目玉は、なんといってもまん我さんの「平林」である。
 歌之助襲名披露の時、これを最初に語ったからという。確かにおれはワッハの客席で聴いている。演目は10分ほどで終わる。その後「本日、初めて明かすが」と襲名披露当日の「裏事情」を15分ほど語る。……この日、米朝師匠は口上の時にはおられず、最後の歌之助「寝床」前に来はったのだが、舞台裏では、まん我さんの獅子奮迅の活躍があったらしい。「平林」のあと「寝床」前までの約2時間、いやはや、手に汗握る展開である。まん我さんが「歌之助の今日があるのはおれのおかげ」と自負するのもむべなるかな。たいへんなドラマが進行していたのだ。
 それにしても……襲名披露のあとのミュンヘンでのウチアゲでは、米朝師匠、元気に飲んではったなあ。文化勲章受章の2年前である。

5月25日(木) 穴蔵
 朝だ。雨が降っている。おれの場合、手元にあるのは龍角散のど飴である。
 8時頃に雨はやみ、曇天。室温27℃で、東向き穴蔵の住人には快適な日である。
 終日穴蔵。少しは仕事もするのであった。
 たちまち夕刻。
 夜は専属料理人に、翁豆腐のヤッコ、和風ハンバーグ、サラダを並べてもらってビール。
  *
 初夏パスタ(静岡産桜エビと空豆)で豊崎西公園南側中本酒店推奨格安馬鹿旨白ワイン。うまっ。
 本を読みつつ早寝するのである。
 少しだけ有意義な日であった。

5月26日(金) 穴蔵/ウロウロ
 薄曇りの空で明け、あとは晴れたり曇ったり。室温26℃で、おれには少し肌寒いが、ドタマの働きにはよろしく、穴蔵にて明日の某講座の準備を進める。
 昼前に専属料理人と梅田にでかける。
 金融機関に寄り月次の処理など。
 昼は、お初天神まで歩き、瓢亭でこういうものをいただく。
  *
 夏は柚の効いた夕霧に限るなあ。
 買い物でデパ地下という専属料理人とはあっさり離別して、ささっと帰館。
 また夕刻まで机に向かう。
 夜は専属料理人の並べた、キンメ煮付、桜エビ掻き揚げ、ひじき、トマトサラダなどでビール、カンテのパンで豊崎西公園南側中本酒店推奨格安馬鹿旨赤ワインを少しばかり。うまっ。
 毎日こうありたいものである。

5月27日(土) シンギュラリティサロン@グラフロ/円城塔氏@エルおおさか
 昼過ぎに出て、歩いてグラフロ・ナレッジキャピタルへ。
 松田卓也先生主宰のシンギュラリティサロン。
 本日の講師は理化学研究所の五十嵐潤先生。
 演題は「京・ポスト京コンピュータによる脳の大規模シミュレーション:ペタスケールからエクサスケールへ」
 スパコンによる大脳シミュレーション・プロジェクトの現況(パーキンソン病でみられる震えの発生機構のシミュレーションなど)の報告から、次世代の「ポスト京」を用いたヒトの全脳シミュレーションの展望までを話される。
 ポスト京コンピュータではヘクサフロップスにレベルアップして、2022年には全脳シミュレーションが可能になりそうだが、これが達成されても「人格」がシミュレートできるわけではないから、外部から見ても「なんだ、この程度か」という印象だろうと、クールである。AIの方が人気で、神経細胞の研究に取り組む研究者が不足気味という現状も逆に面白い。
 16時まで。
 地下鉄で天満橋へ移動する。エル大阪へ。
 創作サポートセンターの講義、本日はゲストに円城塔さんを招いて、その創作法を聞く企画である。
 (先日来、穴蔵にて読書という日が続いたのは円城作品再読のため。インタビュアーとしては緊張しまっせ。)
 円城さん登場となると関心が高く、セミ公開(クチコミで来た人はOK)方式にしたら、広い会場に変更したのがほぼ満員になった。関西の作家諸氏もラノベ系含めて10人以上。
 デビュー作『Self-Reference ENGINE』『オブ・ザ・ベースボール』から、純文誌とSF誌に同時並行連載された『プロローグ』と『エピローグ』まで、具体的な執筆状況(使用パソコンの機種や執筆場所まで)を話してもらったが、業界の裏事情も含めて、意外性の連続であった。受講者がいたばん驚いたのは円城さんの冗談好きの一面であったようだ。創作法については、受講者の特権でもあるのでここには明かさない。『プロローグ』に書かれている日常はほとんど事実というのが驚きだが、円城流ロジックにならえば、作者にとっての事実であり、読者にとっても事実であるかどうかは怪しくもある。
 あと、近くの居酒屋でガヤガヤ。
 精神的にはまことに刺激的かつ疲労する1日であった。

5月28日(日) 穴蔵
 晴、もう夏の日射しである。
 終日穴蔵。静かに机に向かって過ごす……つもりであったが、昼、40分ほど外出。
 専属料理人と本庄の量販店往復。6月から酒税法が変わり、ビールがまた値上げという。少しばかり(2、3週間のことだけど)買いだめすることになり、ポーターをつとめる。おれは老後の生活をお上に頼るつもりはないのだから、ビールくらいはそこまで収奪しないで、老人割引を検討してくれよ。
 たちまち夕刻となる。
 19時過ぎ、暮れゆく北梅田を眺めつつ晩酌。
  *
 専属料理人に、枝豆、翁豆腐のヤッコ、豚肉アスパラ巻き、サラダなど、シンプルなメニューを並べてもらって、ビール、黒糖焼酎の水割り少しばかり。
 ざこば師匠が脳梗塞で入院のニュース。うーん。

5月29日(月) 穴蔵/独居生活開始
 朝6時のニュース、北朝鮮が弾道ミサイル発射のテロップが流れる。しばらくして政府の毎度おなじみ「断じて容認できず、厳重に抗議」……聞き飽きた。簡潔に「いつもと同じコメントを発表しました」と流せば十分ではないか。
 朝食後、専属料理人が実家へ帰ってしまった。
 べつに愛想尽かされたわけではなく、家庭の事情(トニー谷)である。
 しばらく楽しき独居生活がつづくことになる。
 終日穴蔵。
 大著を読む必要が生じ、29℃の穴蔵にて本を読んで過ごす。快適なり。
 昼は河春の幕の内を買ってくる。
 夜は作り置きの総菜並べてビール、黒糖焼酎の水割り。
 早寝するのである。

5月30日(火) 穴蔵
 大阪は真夏日直前(29.5℃)で熱中症に注意とか喧しいことだが、室温は29℃で快適である。
 終日穴蔵。
 書を紐解き独居生活を楽しむ。
 食事だけは面倒だけど。
 昼はコンビニ弁当。不味っ。
 夕刻、天八のスーパーを自転車で往復。
 夜は、徳島産の枝豆(これはちゃんと茹でる)、みりん干しを炙ってビール。うまっ。
 あとの、出来合いの肉じゃがとか若竹はひどいもの。れんとの水割りで流し込む。
 しかし、この程度のことで弱音はいてはいかんのである。
 明日は初心(独身時代)に戻って、少しは気合いを入れて調理に励むことにしよう。

5月31日(水) 穴蔵/ウロウロ
 一応晴れているが、ぼやっと霞み、雲なのか黄砂なのかPM2.5なのかよくわからん。
 終日穴蔵にて独居生活……のつもりだったが、月次の処理があり、昼前に出て、金融機関などうろうろ。
 ついでに、グラフロにあるパナソニック・センターに寄り、テクニクスの試聴をさせていただく。
 小川理子さんの『音の記憶』について某コラムで紹介するので、一度は聴いておかねばならぬ。
  *
 ここは原則予約制。不思議に水曜は空いているそうで、ロリンズを20分ほど聴かせてもらった。
 説明役として常駐のSさんに聞くに、リスニングルームとして壁や床に500万ほどかけたとか。さすがに音響はすばらしい。コーヒーの持ち込みもOK(アルコールは不可)だそうで、4、5人のグループで来てジャズ喫茶がわりに利用する例も多いらしい。
 Sさんは初期のテクニクス開発に関わったパナソニックのOBで、オーディオ関係の話題も豊富、次のリスナーが来るまで話し込んでしまった。


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