HORI AKIRA JALINET

『マッドサイエンティストの手帳』93

●マッドサイエンティスト日記(1999年1月後半)

主な事件
 ・世間連休の最終日夜に歌之助落語会……
 ・梅田トイレマップ(バリウム対策)
 ・人並みに風邪ひきヤケクソ寝
 ・阪急の全席シルバーシート化に反対する
 ・中松義郎のパクリは犯罪的である

1999年

1月16日(土)
 世間3連休の2日目なれどボンクラ息子は登校の日のはずである。
 定刻の午前7時を過ぎても、ボンクラ息子の母親、起床の気配なし。休校なのかと遠慮がちにいうと、跳ね起きて、ドタバタ開始。ったくもう、昨日の仕事が長引いて泊まりになっていたらどうなっとるのであろうか。よくこんなことがある。
 雑件が堆積しているので、自転車で本町の会社へ。休日で静かなはずが、フロアの掃除が始まり、うるさくて14時退散。帰宅してコタツでごろ寝。

1月17日(日)
   午前中、ホームページ更新。エディターを先日からWZ-EDITOR Ver.4に入れ替えたのだが、どうにも使いづらい。ブラウザの起動がうまくいかない。2時間ほどあれこれやったあげく、結局Ver.3に戻す。
 昼、北野勇作さんが遊びにくる。「ボンクラ息子の母親」を入れて3人で菊華で中華。豊崎神社の宮司を中心とする「地域の顔役」連が奥の方で宴会を開いている。豊崎神社は「商売の神様」ではないはずが、先日の「えべっさん」でも「営業」していた。最近は神様も多角経営である。賽銭が多かったので祝宴かな。……宮司こそが商売の神様に見えてくる。
 本庄にスーパーができたというので見物に行く。ファミレスが「ライフ」というスーパーになった。ありふれたスーパーだが、確かに近所にはなかったなあ。北野勇作と野菜売場の値段をチェック、風体といいやってることといい、誰もSF作家二人連れとは思わないであろう。
 夕方、京阪・守口へ。守口で落語を聴く会 第2回「おごろもち亭」
 午後6時45分〜8時45分
 道具屋  桂歌々志
 骨つり  桂歌之助
 高津の富 桂出丸
 親子酒  桂歌之助
 世間は3連休、その最後の日の夕方、だいたいが明日からの仕事に備えて家路につこうかという時間にもかかわらず、なんと和室に立ち見まで出る満員の盛況。珍しいからと歌やんが高座から写真撮影する地域密着型落語会。
 今回特筆すべきは出丸さんの「高津の富」の熱演。身振りが大きくて、屏風がわりの襖が倒れるというハプニングまであったが、ともかく相当ネタを繰ったという成果を発揮、(ネタ下ろしだったのか?)「2番が当たる」と信じている男のくだりなど爆笑。
 前回の8時45分感情の追い出しアナウンスに懲りてか、「親子酒」のサゲを8時44分50秒頃に決めた歌さんも見事。
 おなじみ「2次会」……こちらは、翌朝が早いので失礼する。
 色々と恐ろしいことが控えている週だからなあ……

 世間様疲れた頃に落語会
 歌らしくあり歌らしくなし

1月18日(月)
 朝から北摂山系の麓にある事業所へ。寒い。始業から1時間はほとんど暖房がきかない。……色々な事情から、20年ほど通ったこの地も、あとしばらくで訪れることがなくなるのである。
 午後、大阪市内。
 夕方、かんべむさし氏の事務所に寄る。
 色々と「暗い」話を1時間半。これまた公開できぬ話題である。

1月19日(火)
 朝から北摂の事業所へ。
 午後、取引先へ。
 ともに気の重い話である。
 帰宅後、住んでいる集合住宅の「理事会」ここでもしんどい話ばかり。
 いかなんなあ、ホームページの雰囲気まで愚痴っぽくなってくる。

1月20日(水)
 朝刊によれば、「宙がえり何度もできる無重力」の向井千秋自作の下の句は「着地できないこのもどかしさ」だった。……向井千秋さんが「無重量」でなく「無重力」と表現したところがポイントである。
 午後、会社で管理職全員、ホールへの召集がかかり……以下、300行省略……で帰宅。食欲あまりなく、酒は一滴も飲めない……明日、成人病検診でバリウムを飲まねばならず、本日アルコール抜きなのである。

1月21日(木)
 朝食抜き。クスリも水も飲まず、朝から健康診断。
 けげっ、血圧が「暴騰」している。
 バリウム飲み下剤を飲む。水を大量に飲む。ガボカボ。うーん、切実にビールが飲みたい気分。午後、外注先挨拶回りであるが、不意に襲ってくる便意に備えて、駆け込み可能なトイレの位置を意識しながら動かねばならず、ややこしいことである。
 梅田界隈であれば、だいたい空いている場所はわかるのだが。
 最近のように、ツキが落ちている時期はやばい。落語の決まり文句、
 「弱り目に祟り目、泣き面に蜂、貧すりゃ鈍する藁打ちゃ手を打つ、便所へ行ったら人が入っとる……」
 というフレーズを思い出す。
 落ち着かない日である。

1月22日(金)
 朝から北摂の事業所へ。トラックに大型荷物を積み込む肉体労働、気分は夜逃げ本舗か整理屋である。力仕事は嫌いではないが、バリウムを飲んだ翌日で、体力が落ちているところに腹具合がいまひとつ回復していないから、ここ一番の力が出ない。困ったものである。
 夕方から、取引先主催の「宴会」。招待を受けたかたちだが、正直いって気が重い。
 2次会、煙充満のカラオケ、夜中まで。
 例によって某課長の「もう一軒」絶叫を振り切って帰宅夜中である。

1月23日(土)
 昨日積み込んだ荷物を別倉庫へ移送。……暖房なしの倉庫でトラック到着を待つが、1時間半の遅れ。トラック運ちゃんも昨夜の宴会の余波をかぶっているのである。その間、寒い倉庫でペンギンみたいにじっと待機。荷降ろしと整理の肉体労働、午後3時頃まで。
 喉がおかしく、鼻水が出て、奇妙な筋肉痛と関節の痛みがあり、途中から悪寒を覚える。
 これは何の症状であろうか。
 作業終了後、そのまま播州龍野の実家に帰る。
 野暮用があったのだが、悪寒がして、熱燗いただき、そのまま就眠。

1月24日(日)
 10時間以上寝る。
 体調変わらず、昼間、龍野から大阪に移動。
 午後3時頃に帰宅。そのまま寝る。
 夕食、食欲なく、アルコールを口にする気分にならない。飲みたくもない。こんな気分は何年ぶりであろうか。悪寒と神経痛か筋肉痛か筋違いかわからない関節の痛みがある。
 ・バリウム前後の食生活が体力を落とした。
 ・そこに慣れない肉体労働を急にやった。
 ・さらに気乗りしない宴会とカラオケによる二日酔い。
 ・その上、寒くて風邪をひいた。
 ・それらの複合汚染。
 ……というところであろうか。
 14時間ほど頑張って寝つづける。

1月25日(月)
 もっと寝ている方がいいはずが、哀しい習性で午前5時起床。熱はなし。喉は相変わらず。パソコン通信の【森山研】メンバー、正月から順番に風邪で寝込んでいく感じである。家族とか会社なら「移したら直る」順送り感染もあるだろうが、ネットでもウィルス感染するのだろうか。まるでモダンホラーの世界である。
 重要会議があるため出社。群雲が集う如く関連会社含むメンバー続々集結、まさに風雲急を告げる……以下500行省略……というわけで、またも胃が痛むことである。
 まっすぐ帰宅、おとなしくやけくそ睡眠。

1月26日(火)
 昼間、やっと普通の(?)ボンクラサラリーマンに戻る。
 しばらく「闘病生活」が続いたが、体力が戻ると現金なものでライブが聴きたくなり、午後9時頃、サントリー5へ。月末火曜日でサウスサイド・ジャズバンド出演の日である。
 意外にもガラガラ……に近い。リーダー吉川さん、「ニッパチはこんなもんだよ」と冷めたもので、しかしむろん手抜きなしの快演。
 ライブではおなじみの某タクマのK川嬢と友人のI森嬢が来ていて、「ベスト姿がかわいい」とコルネットのマッシー池田を挟んで記念撮影。マッシーのイタリア人風のとぼけた雰囲気は女性に人気があるなあ……。

 off off

1月27日(水)
 池田市にある事業所へ。
 阪急電車で移動。この阪急、4月からシルバーシートを廃止するというか「全席をシルバーシートにする」というか、わけのわからん計画を発表しているが、困ったものである。阪急の乗客がそんなに「善意」に満ちた客ばかりなのであろうか。阪神に較べれば上品な客という思いこみでもあるのだろうか。阪急にも「阪神ファン」は乗っているし、昔の阪急ファンもオリックス・ファンも、むろん野球に関係ない客も、マナーの悪さは関西どこでも大差ない。こんな提案したやつは阪急に乗らず、シルバーシートの実状を見たこともないに違いない。……それとも、実態を見て、こりゃだめだと判断したのだろうか。それなら席の譲り合いをアナウンスもいっさいしないこと。弱肉強食電車に徹する方が潔いではないか。善意とか親切の解釈を客まかせにするからおかしなことになるのだ。いっそ運転席も同じ扱いにしたら面白いのではないか。
 以上、義憤にあらず。「偽善」は嫌いだが「不公平がまかり通る」環境も嫌なのである。
 よけいなこと考えないでトイレを増やせ、阪急さんよ。
 まあ、池田へ通うことも3月以降はなくなるから、京都・神戸・宝塚へは4月からは極力阪急以外を利用することにいたしますがね。

1月28日(木)
 昨日に引き続き、池田の事業所でトラックへの荷物の積み込み作業。
 別事業所への移送品に「金庫」が含まれている。こいつの積み込み作業が大変。中型ので200キロある。これを狭い玄関口から運び出すのだが、男4人がかかっても、通路が狭くて持ち上げられない。「バールのようなもの」など使って、床や壁を壊しつつ搬出。……金庫破りはあっても金庫泥棒がない事情がよくわかる。
 昔、「Mad」にあった「金庫運び」のドタバタマンガを思い出した。ビルのフロアで端から端まで金庫を男ふたりで動かそうとするだけの話なのだが……最後には、ビルの窓から金庫を落下させてしまう。歩道の男の頭に金庫の角が付き立ち、その男の舌が道路を横切ってビローンと伸びる。その舌の上を自転車が走り自動車が走り軍隊が行進して戦車が通過していく……と、文章で書いても通じないだろうなあ。
 無事金庫を積んだトラック、昼前に長野方面に去る。一抹の寂寥あり。

1月29日(金)
 ボンクラサラリーマン、あちこちで「身の振り方」について色々話を聞かされること多い。むつかしい問題である。むろんわが身にとっても。

1月30日(土)
 久しぶりに公式休日。終日ゴロ寝。
 「トンデモ本1999」を読んでいたら気になる箇所あり。
 唐沢俊一氏が、ドクター中松の「東大キャンパスにおける創造学講義」(ったく、よくやるよ)を「紹介」している。「笑いの創造学」とかに関する部分が気になる。
 それによれば、笑いを引き起こすトリガーとなるものには、1「どんでん返し」2「なぞ解き」3「変」4「合わせ」という4つがあり……それぞれに「本物領域」とか「離れ領域」とかが組み合わされていて、ともかくなにがなんだかわからないとか。まあ、それがトンデモ本たる所以である。
 中松某の本は本屋に見当たらないので確認できないが、これは明らかに「桂枝雀師匠のサゲの4分類」のパクリである。
 1977、8年頃に枝雀師匠が考えたサゲの分類で、当時の枝雀師匠の表現では、
 「ドンデン」「謎とき」「へん」「合わせ」
 の4つに分類される。それぞれの代表的な例としては、「愛宕山」(状況がドンデン返しになって終わる)、「皿屋敷」(ナゾめいた言動が解決される)、「池田の猪買い」(変な状況に転じる)、「天狗裁き」(状況や言葉の合致)。
 これらはあくまでもサゲの分類であって「笑いを引き起こすトリガー」ではない。
 笑いの発生については、枝雀師匠の持論は「緊張と緩和」である。
 枝雀師匠の理論はわかりにくいものではなく、「まるく笑って落語DE枝雀」(19 83年PHP刊)では図解までしてある。
 中松のおっさんはこれをパクった上に、訳のわからんものに改竄しているのである。
 嘆かわしいというか、商売人としての目のつけどころを誉めるべきか。ぼくは「と学会」諸氏ほど懐が深くないので、笑って楽しむ気分にはなれない。
 笑いに関する思考を突き詰めるあまり、この2年高座から離れている枝雀師匠の心中を想像すると、中松義郎の「犯罪」を許す気分にはなれないのである。

1月31日(日)
 いかん、午前2時に目覚めてしまった。早寝するとこうなる。気が向いて自転車で梅田の「つたや」へ行く。ここは休日前夜は午前4時まで開いている。ビデオCD以外に書籍もまあまあ。そこでアサヒネット筒井ファンの間で話題の「シャケの遠吠え」本を立ち読みしようと行ったのだが、置いてない。……せっかくだから梅田界隈を自転車で徘徊、ウロウロしている青少年多し。アホ面を観察して帰宅。
 先日からウチの近所(徒歩5分圏内)で引ったくりが多発、それも午前4〜5時にバイクの若造に頭を殴られて財布を奪われるのだから、これは引ったくりではなく、KO強盗である。唯一の楽しみともいえる早朝散歩がやりにくくなるなあ。
 午前3時過ぎに帰宅、しばらくパソコンをじっていると朝刊が届く。華原朋美がヤキソバ作っていて自殺未遂? 勝手に死ね。
 ……1月は終わる。なんだか怒りっぽい月であった。


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