HORI AKIRA JALINET

『マッドサイエンティストの手帳』77

●芦辺拓「十三人目の陪審員」「鮎川哲也読本」

活躍が目立つ芦辺拓さんの近著2冊

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 「十三人目の陪審員」(角川書店・1900円)は帯に「日本のリーガル・ミステリーを変える傑作」とあるが、これは看板に偽りなしの意欲的な作品である。この帯にケチをつけるなら、リーガル・ミステリー以外に二重三重の趣向がこらしてある点だろう。
 それは目次を見るだけでわかる。
 「第1部 人工冤罪」
 「第2部 陪審法廷」
 まず、第一部の第一章から驚かされる。……自ら「冤罪事件の犯人(?)」になろうという奇妙な計画から始まる。これだけでゾクゾクするのだが、以下、話の紹介はストップさせていただきます。むろんこれから読む人のため。
 ただし、人工冤罪が初めてのアイデアでないことは、作者が「あとがき−−あるいは好事家のためのノート」で詳細に解説している。いや、話の展開もある程度明かしているし、第2部の核となる「陪審制度の復活」についても解説してある。
 書評家か別人の解説であれば、これは「書きすぎ」ではないかと思うが、作者本人だからなあ……。
 ぼくは「あとがき」をちょっとだけ読み、本文を精読してから、「あとがき」を読んだ。これが正解と思うが、「あとがき」を先に読んでも決して楽しみが損なわれるわけではない。
 つまりこの「あとがき」は「読者への挑戦」の変型なのでしょう。
 芦辺拓氏の並々ならぬ自信の表明であり、ミステリー研究家としての一面が出たともいえる。
 陪審法廷場面の緊迫感も素晴らしい。
 傑作である。

 芦辺氏の「研究家」としての仕事が「鮎川哲也読本」(有栖川有栖、二階堂黎人氏と共編・原書房・1800円)である。
 ロング・インタビュー、作品著書目録、全長編レビューなど資料的価値の高い記事が満載、パスティーシュ短編まで載っているサービスぶりである。
 ここでも芦辺拓氏が鮎川作品の全トリックを分析した「四〇〇のトリックを持つ男」に仰天させられる。
 鮎川氏もすごい読者を持ったものだと思う。
 労作である。


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