HORI AKIRA JALINET

『マッドサイエンティストの手帳』54

●マッドサイエンティスト日記(1998年2月前半)

主な事件
 ・筒井康隆「敵」を読む
 ・昔のファンジン「タイムパトロール」同窓会
 ・幻の大吟醸「八海山」を飲む
 ・つづけて谷口英治を聴く
 ・聖バレンタインデー大ホラー大会

1998年

2月1日(日)
 江坂遊さんに会う(前掲)

2月4日(水)
 午後、本間祐氏とコーヒーブ+イク。3月14日に大阪シナリオ学校の企画で「メディアと小説」パネルをやることになる。菅浩江さんを加えた3人の予定。菅さんは音楽までこなすからマルチメディアにふさわしい人選だが、小説に限れば3人とも文章表現は保守的だろうなあ。

2月6日(金)  筒井康隆氏の「敵」……昨日から読み進めていて、帰宅後また断続的に読む。とても一気には読めない。数章読み、しばし気を鎮め、確定申告の計算などして、また数章読む。ぞくぞくとしつつ、しかし、先を読むのが恐ろしい気分にもなる。

2月7日(土)
 雨。午前中、本町の会社で仕事。午後、また「敵」を読む。
 夕方、紀伊国屋前で昔のTPメンバーと会う。昭和39年夏、ダイコン1の会場でチラシをまいてメンバーを集め、それから実質的には4年間ほど活動したファングループ「タイムパトロール」の「同窓会」。呼びかけ人は今いちばんアクティブに活動している万年青年の大迫公成さん。
 集まったのは7人。まったく30年ぶりというメンバーもいて、大迫さんがいなかったら、「待ち合わせの名所・ビッグマン前・土曜の午後6時」では、まずメンバーを探し出すのすら不可能だったろう。
 近くの居酒屋でビール。そこから出てきたところが下の写真。もう、たいへんなおっさんとオバ×ン連中である。

      off

 あと、飲み足りないしゃべり足りないということで、サントリー5へ移動。土曜であるから、ぼくが長年聴いているニューオリンズ・ラスカルズの出演日。
 いつもは静かに聴いているのだが、何のはずみか、チャールストンを踊る羽目に……こんなことは二十数年通っていて初めてである。
 急激に酔いが回る。胃がバーボン入りのフラスコを振ったよう状態だから、当然と言えば当然の結果である。
 まだしゃべり足りないメンバーいるが、一足先に失礼する。

2月8日(日)
 二日酔いである。当然の報いか。
 昼まで断続的に眠り、そのままの姿勢で「敵」を読了。
 「老境小説」とか「老人文学」という言葉では説明のつかない不思議な感動に浸る。これは、30代の読者とは受ける感動がまったく異なるだろう。……お前らにはわかるまい、などとはいわない。が、渡辺儀助の世界に「引き込まれ」る年齢の境界があるように思う。だがしかし、若い読者が感動しないはずはない、これも確か。
 こういってはなんだが、30年前に丸谷才一の「年の残り」を読んで、まあなんと計算の行き届いた小説であることよなあと、妙に感心したことがある。20代前半の若造であったが、たぶん今読み返しても感想は変わらないと思う。感心はしたが感動には至らなかった。
 「敵」はちがう。本当は徹底した計算の上に書かれているのだろうが。
 最終章の擬声語・擬音語とそれに至る伏線がたまらない。
 個人的には、最終章が、わが敬愛するマレイ・ラインスターの最高傑作ともいうべき作品のタイトルに重なってしまって……
 早く妻子から離れたい心境である。
 ……結局、夕方まで布団の中で過ごす。こんなこと、何年ぶりだろう。

2月9日(月)〜10(火)
 サラリーマンは、もはや気楽な稼業でではありませんぞな……ときたもんだ。

2月11日(水)
 建国記念日で世間は休日なれど関連会社操業につき出社。
 気楽な稼業ときませんぜ。たくもー。

2月12日(木)
 早朝、電子メールで短い原稿を送ってから、新大阪6時半のひかりで静岡から清水へ。コソコソと打ち合わせして、昼過ぎに新横浜。ひそひそと打ち合わせして東京。日本橋でボソボソと打ち合わせして、夕方アトソンへ。コソコソと打ち合わせのはずが、エレベーターを降りたところで島戸久六社長とばったり。応接コーナーに座ると、なんと「ベランダで適温に冷やしてある」という新潟の幻の大吟醸「八海山」が登場、ガヤガヤガヤガヤ……午後5時を過ぎたので、わしゃサラリーマンの立場を放棄することにした。
 気がつけば夜である。
 受験生が多いらしく、ふだんのホテルがとれない。
 本日、珍しく、浅草のビジネスホテル泊。
 午後9時頃にチェックインして……ふと気がつけば……本当に、偶然というのは恐ろしい……徒歩10分のライブハウス「浅草HUB」に天才クラリネット奏者・谷口英治出演の日ではないか! 急いで駆けつけて後の2ステージを聴く。臨時編成メンバーだったが、スイング感が素晴らしい。ちょっと話しもできた。美しい奥さんにも紹介された。ホームページ運営の「アーテム」にいらっしゃったとかで、クラも吹かれるという。谷口英治さんのホームページにリンクを張らせていただくことになった。
 23時就眠。よく動きよく飲みよく聴いた1日であった。

2月13日(金)
 午前中、都内を徘徊、ヒソヒソ、ボゾボソ、午後の新幹線で帰阪、夕方、北摂・川西の取引先へ。製造関係の打ち合わせモソモソのあと、会社中2階に作ったというリスニングルームに大型七輪を持ち込んでバーベキュー大会。総勢5名。北村英治やロリンズのCDが流れる中、ヤキトリの煙が盛大に噴きあがり、壁には旭堂南北らの色紙……なんというリスニングルームじゃ。
 気がつけば24時。ほとんど飲んでいない同僚のクルマで送ってもらって帰宅は1時に近い。13日の金曜日は無事に過ぎたようである。

2月14日(土)
 昼まで眠る。
 夕方から、バレンタインデーのホラー大会。
 これは次のページに詳しく書くことにする。

2月15日(日)
 昼前、会社へ。
 出張中にたまった雑務の整理。気楽な稼業でもないなあ。
 オリンピックの中継で世間は浮かれているようである。
 オリンピックは「ヤリ投げ」にしか興味のないやつがれには、ただうるさいばかり。


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