HORI AKIRA JALINET

『マッドサイエンティストの手帳』100

●マッドサイエンティスト日記(1999年3月後半)

主な事件
 ・大相撲春場所を見物する
 ・今年はじめて谷口英治を聴く
 ・3連休は「怪文書騒動」に終始
 ・姫路文学館で筒井康隆氏の講演会

1999年

3月16日(火)
 暖かい日で、本日、珍しく「有給休暇」である。……休暇というのは、昨年、株主総会に「社員株主」として出席するために休日届けを出して以来ではないか。
 本日、大相撲春場所の枡席が取れたからと、本間祐ご夫妻に招待を受けたのである。相撲見物となると、中入り後、午後4時から2時間くらいだから、日頃の休日出勤の振り替えでちょっと抜けていってもいいのだが、お弁当やビールが出るのでねもっと早めに行った方がいいらしい。それに枡席となるとテレビにちらっと映らないとも限らない。アホウ面でビール飲んでるところが映ったりしたら周囲にまで迷惑がかかりかねない。だいたい、こんな時に限ってややこしい事が生じるのである。
 で、休暇届けを出して、雑件があるので昼まで会社で仕事。このへん、つくづく貧乏性だと反省するなあ。
 午後、「ボンクラ息子の母親」といっしょに難波へ。本間夫妻と待ち合わせ、難波体育館へ。
 大相撲大阪場所3日目である。「花月」というお茶屋の仕切で東の枡席。初めて座ったが、仮設の桟敷で、ちょっと怖い。地震がきたら大丈夫かしらん。(……帰宅してから分かったことだが、この日の午後、震度2以上の地震があったそうである。会社にいた人間は怖かったというのだが、この時間、枡席は全然揺れを感じなかった。もともと揺れていたのである)。
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 さて、不思議なことに、勝敗はどうだったかというと、これがほとんど覚えていないのである。テレビで見ると間延びしているが、お弁当、枝豆、ヤキトリ、ビールなどどっさり出てきて、いっぱいやりながら巨漢のぶつかり合いを見ていたら、もう終わっていたという印象である。不思議な空間であるなあ。
 枡席で記念撮影。

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 居住する集合住宅の理事会という野暮用があるので、おみやげをどっさりいただいてまっすぐ帰宅。と、自宅のFAXに会社から連絡。某業務に関して突発的事態発生、やっぱりジンクスは当たるなあ。
 電話して、明日の出張予定の変更など連絡。つづいて理事会。遅くまで休日という感じがしないなあ。

3月17日(水)
 朝7時に出社、机の上に資料を読む。インターネットで関連資料引き落とし。9時になったところでアポ取りと予定変更の電話あちこち、ああややこし。
 2時間でなんとか調整終了、昼前のひかりで上京、日本橋界隈ウロウロアタフタ、4月で転勤する古い知り合いと半ば私的送別会。
 早めに切り上げて、谷口英治グラマシー5リバイバルズが出演中の浅草HUBへ。
 今年初めてである。
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 本日のメンバー、谷口英治(cl)、二村希一(p)、端正なギターの岩見淳三(g)、おなじみ野中英士(b)、シマチューと呼ばれる島田忠男(ds)そしてゲストホーカルがエイコ(vo)さん。
 本日のメンバー、顔つきがみんないい。
 デジカメで接近して撮影。

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 ピアノの二村さんの位置には接近できなかった。残念。

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 ホーカルで「Willow weep for me」を聴く。この曲、極めつけはフラナガンの「OVERSEAS」に入っているやつだろうけど、歌で聴くのは本当に久しぶりである。
 柳よ 泣いておくれ
 泣いていの私の姿を隠しておくれ
 ……いいなあ。
 これが日本だと、この木の下に、「殺しゃ夜中に化けて出る」ということになるから始末におえない。

3月17日(木)
 7時前にチェックアウトして8時過ぎのひかりで帰阪。
 昼前に帰社して、念のために血圧を測ったら156-86。ストレスであろう、やっぱり上昇しとるなあ。
 こんな時に限ってややこしい事件がおこると思っていたら、案の定、昼直前、自宅から電話。今朝、ポストに「怪文書」が多数投函されたという。
 この怪文書騒動は別項に詳述する。もう、この忙しい時にややこしいことをやってくれるなよ。
 午後、昨日からのヤヤコシ問題であちこち。
 帰宅後、今度は「臨時理事会」。
 夕食は午後10時半になるが、朝までに作らねばならぬ文書が2件(ひとつは怪文書への反論である)あって、あまり飲むわけにもいかない。困ったことである。

3月19日(金)
 結局、2時間ほど仮眠して、朝6時に出社。資料をまとめて、さあ会議と、9時過ぎに指定の会議室へ行ったら、肝心のキーパーソンが出張だと。おいおい、そんなら昨日のうちに確認しといてくれよ。こっちは睡眠時間まで削ってるのだぜ。
 とぼやきつつ、連休明けに持ち越し。
 まあ、集中して片づけたのだから、連休に仕事が食い込まず、その点はよかったと、念のため医局で血圧を測ったらなんと134ー70、ほんまかいな。ほとんど正常。ということは徹夜で原稿書く方が血圧にはいいということだろうか。信じ難いことである。これからはそうすべきか。
 終日眠く、定時さっさと帰宅。

3月20日(土)
 午前中に怪文書内容吹聴管理人が去り、午後に新管理人が着任するというややこしい日である。怪文書騒ぎが尾を引いていて、副理事長という立場上、なにかとややこしい。
 肌寒く冷たい雨がふる。柳よ泣いておくれの心境か。
 午後10時頃に、「怪文書」犯の心理状態を知るためにチラシ配布の実験。玄関ロビーで家人にデジカメ撮影させる。なかば呆れられることである。
 自転車でで梅田。つたやで「オール讀物4月号」を買ってくる。筒井さんの「わたしのグランパ」150枚一挙掲載、一気に読む。傑作である。
 眠気がふっとんでしまったので、朝4時頃にビールを飲む。
 朝刊を読んでも、まだ眠れない。昼夜反転である。

3月21日(日)
 午後、やっと起床。
 事情があって、近所に「部屋」を見に行く。うーん。迷うことである。あっという間に夕方である。

3月22日(月)
 連休3日目。ともかく寒い、一時雪が降る。休日悪天候は落ち着いて原稿が書けるからありがたいのだが、またも怪文書関連の「落書き」がエレベーター内にあったという。困ったものである。……ホームページ用に「漢文書騒動」を書く。こんなことに午後いっぱいかかる。本来予定していた「宇宙法廷」が書けない。困ったものよ。夜、またも臨時の理事会。某理事の名誉に関わることなので、その後、居住者への説明文書を作ったらもう夜中である。

3月23日(火)
 連休明け、ボンクラサラリーマン仰天……にはもう慣れてしまって、もう少々のことには驚かなくなった。
 夜、衛星放送で「略奪された7人の花嫁」を見る。35年ぶりではないか。

3月24日(水)
 4時に朝刊見てびっくり、北朝鮮(に決まっている)の諜報船に海上自衛隊の護衛艦が威嚇射撃のトップ記事。あわててテレビ。臨時ニュース放送中である。
 日本海が緊迫しているのに家族惰眠、ひとりで朝食を作って、朝7時に出社。こちらでももめ事。昼飯を食べる時間もなく、夜、帰宅するとキムチ鍋で不思議な気分になる。

3月25日(木)
 朝4時、朝刊に「枝雀自殺未遂で意識不明」の記事。うーーーーーん。
 ボンクラサラリーマン多忙。終日元気が出ない。
 夕方、神奈川の取引先の某氏来阪。今夜しか時間がとれないので、いったん帰宅、自転車で十三大橋を渡って宿泊先のホテルへ。阪急・十三の駅前路地の居酒屋「ひで」で22時過ぎまで。キンメダイの煮付けがうまい。……ふらっと出張してきてこんな店を発見するとは、某大畑氏、なかなかの才能である。

3月26日(金)
 早朝のひかりで上京。日本橋界隈ウロウロのあと、石井紀男氏とランチ。久しぶりにSFの話など。水面に浮上するかしないかの某プロジェクトのことなども。
 午後、霞が関の弁護士会館で、「工業所有権仲裁センター設立1周年記念シンポジウム」。模擬仲裁などなかなか面白い。パネラーのひとりに弁護士・牧野利秋氏。もと東京高裁判事……というよりも、「太陽風交点」事件の地裁での裁判長で、判事席と証人席で顔を合わせて以来、17年ぶりである。挨拶したかったが、後の懇親会には参加されずに帰られたらしい。残念である。
 最終ひかりで深夜帰宅。

3月27日(土)
 休日であるが、またも朝から臨時理事会1時間。
 終了後、播州龍野の実家へ。80歳の母は読書家であって、読む本がなくなるとわが書庫から何か持ってきて読んでいる。さすがにSFは読まないが、吉村昭の「破獄」を吉村作品の最高傑作と評価するところなどなかなかのものである。本日も「オール讀物」4月号を読むかと持ち帰ったら、すでに購入していて、「わたしのグランパ」はたいへん面白かったという。さすがわが母である。

3月28日(日)
 5時に朝刊を見ると、沖田浩之が自殺。36才。色々あるなあ。
 昼過ぎ、姫路駅で大阪から来た「ボンクラ息子の母親」と合流、姫路文学館へ向かう。筒井康隆氏の講演会である。姫路文学館まで歩く途中、岡田信子さんと会う。こちらはタクシー嫌いで歩いていたのだが、彼女は「貧乏だから」である。ただの貧乏ではなく、来週東京へ「かもめ」を観に行くために貯蓄を増やしたための貧乏だから、見上げたものである。
 筒井康隆講演会。「現代文学の問題」。作家、新人の置かれる状況論をメインに1時間半。……で、その後、2日後に始まる蜷川演劇、競演の役者が東京で「自主トレ」中だからと、チェーホフ「かもめ」の長科白を演じられた。役柄は「流行作家」トリゴーリンで、チェーホフでも筒井さんでもないのだが、講演内容と重なる部分もあって面白く、作家と役者の両人格が登壇する破格の講演会となった。

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 終了後、控室へネットの者ども、地元代表の上田卍をはじめ、高井信、岡田信子、Silver PON、のりこり、岩崎早百合ら敬称略の約10名どやどやと入室。4月から放映される「蘇る金狼」の企業舎弟役など、色々と面白い話を聞く。
 写真は、「かもめ」の筒井氏。控室。それに色紙に揮毫中の逆光写真、これはきれいに撮れたと思うのだが、「バットマンが万歳しているような」(筒井氏)構図……確かにそのように見える。
 最終で上京のため、垂水まで帰られる「大親分」筒井氏をズラリと並んでお見送りする。早くも「蘇る金狼」の雰囲気になっているのが凄い。……下の写真をご参照。「情婦役」の多いことよ! 最敬礼の後、散会。

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 ボンクラ息子の母親と、姫路城の庭を抜けて、城の東側、わが母校の横にある修道院に寄る。日頃の悪行を某シスターに「お払い」してもらって夕方帰阪。

3月29日(月)
 休日明け、今やたいがいのことには驚かないことになっているはずが、やっぱりびっくりするなあ。以下略。

3月30日(火)
 厳寒なのに大阪は桜の「満開宣言」、いったいどういう事情であろうか。
 3年間東京から単身赴任してきていた旧友、4月から東京に戻るというので、夕方から送別会。焼き鳥「てころ」→瓢亭の「夕霧そば」→サントリー5でライブというおなじみのコース。
 サントリー5は最終火曜日でサウスサイド・ジャズバンドの出演日。明るいデキシーの日であるが、一曲、リクエストらしい「小さな花」、これを吉川裕之が「流行のタンゴ」で演奏すると言い出した。……バンジョーが面白がって見事にタンゴのリズムを刻むが、ソロをピアノに渡そうとしたら、ストライドピアノの名手・藤森省二はにこりともせずこれを拒否、静かにリズムを押さえ続け、結局全曲クラ演奏。藤森さんのこういう姿勢はテディ・ウィルソンに似ているなあ。
 帰宅深夜である。

3月31日(水)
 本日をもって会社は期末である。15時の株価ばかりが気になるのはSF作家としては情けない限りである。



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