八代嘉美『iPS細胞』(平凡社新書)

 副題は「世紀の発見が医療を変える」
 帯の推薦文は筒井康隆氏。
 「学究のみごとな誘導で読み進めれば6章以降は圧巻。これは不老不死へと疾走するiPS細胞研究の現在とその全貌だ。」
 
 八代嘉美氏はSF大会に参加しているSFファンにはおなじみの人である。
 カフェ・サイファイティークの主要メンバーであり、色々な企画に関わっているSFファンである。
 してその実体は……東大医学系研究科博士課程にいる学究である。
 本書は今話題のiPS細胞についての優れた解説書である。
 それがどの程度優れているかなんて、おれに論評できる資格はない。本書でiPS細胞についてその基礎を学んだのだから。
 しかしともかく、わかりやすく、すぐれた啓蒙書であることは間違いない。
 おれが圧倒的な感銘を受けたのは「終章」10数頁である。
 ともかくこの章が素晴らしい。
 ここで科学史というか思想史というか、SFの始祖といえるシェリー夫人「フランケンシュタイン」から始まる生命科学史(シェリー夫人の限界も)と、iPS細胞の21世紀における位置づけが語られる。
 これはSFファンにして科学者という立場にしてはじめて得られる視点ではないか。
 八代氏はフランケンシュタインが19世紀の科学であれば、20世紀を<核>の時代と位置づける。これは種としての生命に関わる<核>兵器と、生命観を揺るがす細胞<核>である。
 そして21世紀……生命の細部をここまで知った人間の未来にあるのは「生命力」と「知性」の相克にある……と読める。そしてむろん著者は人間の「知」に信頼を置く。
 これは『サイエンス・イマジネーション』における「問いかけ」へのひとつの答えでもある。
 ともかく刺激的な1冊である。
 (2008.9.4)


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