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  疎開小説を読む(その4)

高井有一『少年たちの戦場』(文芸春秋 1968年)

 タイトルは知っていたが、読まないままだった作品。
 作者は昭和20年1月末から3月末までの2ヶ月間、集団疎開に参加したという。
 主人公、氷川泰輔は、昭和20年1月末から北関東の寺に集団疎開する。引率教師のひとりが五代節雄。
 20年後、教師の五代が亡くなり、遺稿を整理する時に古い「疎開日記」が発見される。
 氷川の疎開体験の中に、教師の日記が挟まれ、双方の視点から疎開生活が語られるという構成である。(この日記が実在の資料なのか創作なのかは不明。モデルになる手記があったのかもしれないが、小説であるから、これは創作と見るべきだろう)
 疎開先は不明だが、汽車で2時間、山や川の描写、「鷺ノ瀬川」が荒川に合流するらしいといった描写から、『冬の神話』と同じ入間川沿いである可能性が高い。
 この五代教師はマジメで、生徒と国やムラとの間で悩む。
 その分、記述は客観性を持つが……後知恵の気配なきにしもあらず、というと不謹慎か。
 作品としてはずいぶん淡白な印象を受ける。というか、作りすぎなのではないか。

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