『Gentlemen For Swing』と『鈴懸の径』

 今や日本のジャズ・クラリネットを代表する東西のふたり、谷口英治滝川雅弘の新譜がほとんど同時に出た。
 やはりクラリネットは秋の楽器か。
 
 谷口英治セクステット『Gentlemen For Swing』(@JAZZ ARTCD-115)はテナー(右近茂)とトロンボーン(片岡雄三)との3管編成で、特別ゲストに北村英治を迎えている。
 谷口英治の技量はオールマイティで、スイングもモダンもラテンもクラシック畑との共演も見事に吹きこなす。さらにいつも驚かされるのがアレンジのうまさである。ここ数年ライブ活動を続けてきた3管によるスタンダード集で、「A列車」や「ムーンライト・セレナーデ」「星影のステラ」などお馴染みの曲が多いが、すべて過去の代表的演奏のイメージとは別の編曲が施されているところがさすがだ。
 むろん小編成だから、それぞれのソロパートは個性豊かである。
 それにしても……北村英治さん(3曲に参加)、今まで何度「メモリーズ・オブ・ユー」を演奏してきたのだろう。おそらく1万回は超えるはず。それでも谷口英治との2クラで瑞々しい音色を聴かせる。ただ感嘆。

 で、精密にアレンジされた曲もいいが、何といってもジャズはアドリブであり、おれの場合、ワンホーンで吹きまくるスタイル(テナーならコルトレーン・カルテットね)が好きだ。これをクラで徹底的にやるのが滝川雅弘である。
 
 『鈴懸の径』(Marshmallow Records)はジーン・ディノヴァ・トリオに滝川雅弘さんがゲストで参加している。
 ディノヴァ……渋いピアニストで、あまり知られてないだろうなあ。ぼくの滝川さんとの共演まで聴いたことがなかった。1928年生まれの81歳、グッドマンともデフランコとも共演歴があるとなれば、ゲスト・クラリネットは滝川さんしか考えられない。
 シーンの繊細にしてリリカルなスタイルに合わせて、滝川さんもエモーショナルな演奏は抑えているが、表題作はじめ4曲、見事にジーンの曲想に合わせたアドリブを披露している。聴かせるねえ。
(2009.9.30)


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