須田慎一郎『ブラックマネー』(新潮社)

 副題は「『20兆円闇経済』が日本を蝕む」
 
 須田慎一郎氏の著書では、前の『下流喰い――消費者金融の実態』(ちくま新書)が凄かった。特に「人身売買」の会場へ潜り込むくだり。
 今回はさらに拡大して、ヤクザマネーが地上げ屋やハゲタカファンド、新興市場、さらにはメガバンクとまで「共生」していく実態が、これまた生々しいエピソードを詰め込んで描かれている。
 ヤクザマネーは普通の投資資金と違って、「損を認めないカネ」で、「ノーリスク、ハイリターン」を前提としているというから恐ろしい。
 特に面白いと思ったのが、不動産ミニバブルで、「秀和紀尾井町TBRビル」の地上げに関わる事件である。
 様々な資料から、この事件の「黒幕」(酔っぱらい運転に例えて「酒を飲ませたやつ」と表現されている)をあぶり出していく過程はスリリングだ。この「黒幕」は、この本の刊行後に話題になっている「かんぽの宿」に関わる「平成の政商」なのだから、予見的であるなあ。
 おれは「秀和紀尾井町TBRビル」には思い出がある。四半世紀前に、数回このビルを訪れているからだ。S法律事務所があり、その後、わが事件を担当してくれるM弁護士と初めてあったがこのビルであった。M弁護士はその後、新橋の方に事務所を構えたから、麹町へ行くことはなくなった。今は駐車場になっているのか……。
 本書はサブプライムローンに始まる「未曾有の不況」の直前に書かれている。
 したがって、ここに登場した連中のその後がぜひとも知りたいところだ。
 例えば……「司忍」が6代目に就いたのは名古屋を中心とする「経済力」があったからと分析されている。となると、自動車産業の失速によって、アチラの世界にもまた地殻変動が起きるのか。なにしろアチラの世界では不況は「ビジネスチャンス」だという。嵐の予感、風雲急を告げる感じだ。
(2009.2.19)


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