梶尾真治『穂足のチカラ』(新潮社)

 カジシンの「新聞連載小説」の単行本化である。
 
 この作品、昨年、チラチラと拾い読みしていた。播州龍野地方では神戸新聞に掲載されていたからである。が、生活パターンから毎回読むわけにもいかず、単行本化を待っていたのである。
 新聞連載時の拾い読みの印象をいえば……舞台は現代の熊本。父親が「不明」の三歳児が家族に不思議な能力を授ける。それは「奇蹟」としかいえない。やがて三人の「賢人」が訪ねて来て……となると、いやでも半村良の新聞連載作品を連想してしまう。そのカジシン版かなと想像していたのだが……。
 設定は似てないではないが、まったく別物であった。いかにもカジシンらしい50年代SFの雰囲気濃厚な(しかし新聞読者にはほとんどSFを感じさせないだろう。本のどこにもSFとは表記されていない)長編SFである。
 自分でも制御しにくい「超能力」を与えられたのが主人公だけという設定の短編なら、似たような話はありそうだが、これを家族5人に設定したのがカジシンのアイデアで、結果として見事な「家族小説」になっている。
 営業職が苦手な父、パチンコ依存症の母、私生児?を持つ娘、登校拒否の息子……それぞれの悩みと「反攻」ぶりが例によって丹念に描写されていく……特に、三歳児から見て「曾祖父」に当たる、痴呆症になりかかっている爺さん(その名も海野十三郎!)の描写が、ボケ寸前のおれには身につまされるほどうまい。
 話の展開は紹介する必要はあるまい。
 千枚近い長編、一晩で一気に読まされてしまった。
 カジシン、凄い作家になったなあ……。
(2008.9.23)


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